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安達奈緒子『G線上のあなたと私』1話

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『G線上のあなたと私』がおもしろい。TBSの火曜ドラマで、磯山晶(チーフプロデューサー)、安達奈緒子(脚本)、金子文紀(演出)という座組みへの期待に、見事に応えてくれる秀作の予感だ。

 

アラサーOL、40代主婦、男子大学生という世代も性別も異なる3人が、バイオリン教室を舞台に、奇妙に結びついていく。しかし、このドラマにおいて“音楽”はマクガフィンのようなものだ。

こういうのってご縁じゃないですか?

すごいと思うんです

たまたまこうやって知り合うって奇跡です

“たまたま”同じ場所に居合わせたことにより、すれ違うだけだったはずの人々が惹かれ合っていく。そんな人生の偶然性のおかしみに花束を贈る。あらゆる人で溢れかえるショッピングモールから物語がスタートすることが、それに示唆的である。そして、偶然出会った3人は、それぞれが抱える傷や痛みをわかちあっていく。ドラマの序盤で也映子(波瑠)の拳を痛めていた傷が、理人(中川大志)の拳に移転するという演出が憎い。さらに、カラオケボックスでの也映子の独白に対して、理人が、フロントからの電話に「延長でお願いします」と返し、幸恵(松下由紀)がフライドポテトを追加注文することで応えるシーンのさりげなさ。また、今作の3人の絶妙な距離感が召喚する「敬語を主体とした台詞展開」には、確実に“坂元裕二”以降を感じる。

 

波瑠と松下由紀の軽さがとてもいい。*1コミカルな会話劇が上滑りしていないのは、2人の演者としての巧さもあるが、その明るさの裏に“照れ”や“悲しみ”が潜んでいるからだろう。婚約者から「他に好きな人ができた」と婚約破棄される也映子。夫に浮気され、姑からも邪険にされている幸恵。彼女たちはしっかり傷ついているのだけども、悲しみに暮れることを自分に許していない。そういうことさえ上手くできない人間というのがいる。いや、そもそも人間というのは、どれだけ心が傷つこうとも、安い映画のように、四六時中泣き喚き、叫び続けたりはしないものなのだ。傷つきながらも、眠り、ご飯を食べ、くだらないことを言い合い笑うのである。「悲しくて、楽しい」という複雑な状態は簡単に成立してしまう。それは、映子が、人がたくさん死ぬ映画で流れるG線上のアリアを「すごく良い」と感じたことに似ている。そういう複雑さを、非常に軽いタッチでこのドラマは描いている。そう、とにかく軽さがいい。大事なドラマの第一声を小木博明おぎやはぎ)に託してしまったり、視聴者にとってのヴィラン的存在を担ってもおかしくない役割を滝沢カレンに演じさせ、憎めないキャラクター像に仕上げてしまうのがいい。同じく、いくえみ綾×波留の『あなたのことはそれほど』とはまた異なる、アンチドラマの傑作誕生の予感なのである。

 

*1:「ちょっと男子ぃ〜」のくだりは思わず3回観ました