青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

ドムドムバーガーというブルース

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<A面>
ドムドムバーガー、その響きだけで胸がトクンとなってしまう。あの空間こそ、私たちの”かつて”という気がする。1970年に出店した「ドムドムバーガー ダイエー原町田店」が日本で最初のハンバーガーショップである。これは『トリビアの泉』といったテレビ番組でもたびたび紹介されており、わりと有名なお話。そう、始まりはマクドナルドではないのだ。Wikipediaによれば、マクドナルドの日本でのチェーン展開はダイエーとの間で進められていたが、主導権を握る為の資本比率で揉め、ご破算に。そこで、ダイエー日本マクドナルドに先駆け、独自に展開し始めたのがドムドムバーガーなのだそうだ。つまり、ドムドムバーガーは日本のハンバーガーショップのパイオニアであり、マクドナルドの”ありえたかもしれない姿”なわけだ。1980年、ダイエーウェンディーズフランチャイズ契約を結んだことで店舗数が縮小(多くのドムドムウェンディーズに転換された)、90年代以降は親会社であるダイエーの業績悪化に伴い、店舗数は目に見えるように減少。私たちの日常からドムドムは消えた。しかし、ドムドムは死んだわけではない。公式HPによれば、現在全国で50店舗を運営している。完全に消え去るでなく、僅かながらに現存しているという健気さも、心情に訴えかけてくるではないか。都内で生き残っているのは、3店舗だ。イオン赤羽北本通り店、ダイエー小平店、マルエツ大泉学園店・・・どう贔屓目に見ても、インスタ映えはしないであろう土地ばかり。そして、どこもアクセスがおそろしく悪い。タイミング良く、大泉学園を訪れる機会があったので、少し足を延ばして「ドムドムバーガーマルエツ大泉学園店」に寄ることにしてみた。実に20数年ぶりのドムドム体験である。


マルエツ大泉学園店は西武池袋線大泉学園駅から徒歩30分以上はかかる。ちなみに、かつて『水曜日のダウンタウン』で「東京都練馬区大泉学園町6丁目 陸の孤島説」というの説が放送されたが、マルエツ大泉学園店はそのお隣の大泉学園町5丁目である。すなわち、ほぼ陸の孤島。これはもうよほどの数寄者以外は近所の方しか訪れないだろう。ドムドムはそんな陸の孤島を支えるスーパーマーケットの入口に併設されていた。
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外観だけで少し涙腺に訴えかけるものがある。記憶の中のドムドムバーガーと変わっていないのだ。今年9月、ドムドムバーガーの経営権はダイエー子会社のオレンジフードコートより新会社であるドムドムフードサービスに譲渡され、ロゴ、制服、メニューなどを整備していくとのニュースを読んだ。しかし、このマルエツ大泉学園店の看板はまだ旧ロゴのままだ。と言っても、旧ロゴと新ロゴの違いは、マスコットキャラクター「どむぞうくん」が円に囲まれているかいないかだけなのだが(トップ画像を参照)。
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スタンド看板のオレンジと黄色の配色も泣かせる。このどむぞうくんの良さが、ドムドムの魅力の6割を背負っていると言っていい。ポップでキュートでありながら、押しつけがましい所がなくクール。どむぞうくんを胸に抱けば、あんなにも怖いルックのピエロがトップランカーとして君臨しているファストフード界の異様性が際立つというものであろう。


店内に入ると、タイムスリップしたような感覚に陥ること間違いなし。とにかく、くだびれている。内装も照明も鮮やかさとはほど遠く、どことなくブルージー。土曜の昼下がりだが、客入りは5割ほど。そして、客層はほとんどが高齢者である。若者の姿は見当たらない。だからというわけではないだろうが、メニュー表は大きく明瞭で、それがまた実に野暮ったい。接客もまったく洗練されていない。作り置きはほぼしていないようで、どの客も注文してから5~10分は待たされている。全然ファストフードじゃない。当然、熱々の出来立が楽しめるのだろうと思いきや、注文したハンバーガーは3個中2個が冷めていた。おそらく、ひどく非効率なマニュアルで運用されているに違いない。けど、もうそこがいい!ダメな子ほどかわいいのです。注文したバーガーはビックドム、お好み焼きバーガー、甘辛チキンバーガー。どれも、ドムドムを代表するバーガーだろう。ビックドムとお好み焼きバーガーは、原点復帰で今年の9月から復活したメニューとのこと。とりわけ、お好み焼きバーガーはその強い個性から根強いファンが多い。
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新メニューもなかなか際立っている。根菜鶏つくねバーガー、手作り厚焼きたまごバーガー・・・どれもおそろしく調理に時間がかかりそうである。しかし、方向性は間違っていない気がする。断トツでオススメなのはやはり甘辛チキンバーガーだろう。店内を観察していても、客の6~7割はこの甘辛チキンバーガーを注文していた。基本的にどのメニューも、駄菓子のようなチープさが売りのドムドムだが、この甘辛チキンバーガーは本格派だ。プリっとジューシーなチキンと照り焼き系のソースの相性が絶品。元も子もない言い方をしてしまえば、モスバーガーレベルのクオリティを発揮した商品である。
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ちなみに、どのバーガーも潰れていて、ルックはひどく悪い。サイドメニューのマストとして、スイートポテトパイとバーターコーンを挙げておきたい。スイートポテトパイが期間限定メニューではなく定番商品なのもうれしい。サンデー系も老婦人に人気のようで、ハンバーガーセットができあがるのを、アイスを舐めながら待っているババア(愛と感謝込めて)を2人見かけた。あぁ、ブルージー。前述したように、今年の9月よりドムドムは心機一転を図っている。メニューは原点回帰しているようだが、店舗のデザインやマニュアルは、時代に伴った見直しが入っていく可能性はある。”昭和のドムドム”を体験できるのは、今が最後のチャンスなのかもしれない。




<B面>
私が足繫くドムドムバーガーに通っていたのは小学生の頃だ。「ドムドムバーガーってガンダムに出てくるドムと何か関係あるのかなぁ」、当時の私が抱いていた疑問に、今の私であればグーグル検索であっという間に応えることができる。

ドムドムハンバーガーの名前の由来は、旧運営会社であり、かつオレンジフードコートの親会社であるダイエーの企業理念「良い品をどんどん安く」のどんどんを取ったもの。しかし、「どんどん(DONDON)」は商標登録されていたため、ドムドムハンバーガー(DOMDOM)となった
Wikipediaより>

関係ないのはわかっていたが、まったく予想外の由来であった。”どんどん”が空いてなかったから”ドムドム”に、その思考の経路こそ知りたいと思うのだが、そういう情報はまだネットでは拾うことができない。そんな時代もまたノスタルジーの対象になっていくのだろうか。話を元に戻そう、幼稚園から小学校へ。それまでの羊水に守られるような日々を終え、社会の不条理に晒されていく、始まりの季節だ。小学校に入学すると、父から「柔道か剣道かどちらか選べ」と突然突き付けられた。古い人間だったので、「男子、強くあるべし」みたいな思想が強かったのだろう。確かに当時の私は、忍び寄るサッカーブームにも目をくれず、部屋でパトカーの絵を描くか、カードダスをうっとりと眺めているかの、文化系まっしぐらのナードであった。当然、どちらも1ミリもやりたくない。今でもはっきり覚えているのだが、父は「剣道は刀を使う武道、柔道はドラゴンボールみたいなやつだ」と説明した。もしかしたら、『ドラゴンボール』好きの私を柔道に誘導したかったのかもしれないが、「そんな痛そうなもの絶対に嫌だ」と消去法で剣道を選択した。とは言え、剣での殴り合いもまったく興味がない。週1回の習い事ではあるが、それはひどく憂鬱なものであった。閉所恐怖症であったらしい私は面をつけると、あまりの息苦しさから泣きながら竹刀を振り、スパルタの師範の指導に耐え忍ぶ日々。そんな中での唯一の救いは、道場に向かう前、もしくは稽古後に食べるドムドムバーガーであった。お気に入りはスイートポテトパイとフライドポテトの組み合わせ。芋と芋の甘さとしょっぱさのコントラスト。人生は思い通りにはならない、そんな季節の始まりにドムドムバーガーはあった。あれから20年、やっぱり人生は不条理で、それでもなんとか生きていく為に大切なものをたくさんかき集め、ここに記してきた。それらの始まりはすべてドムドムバーガーだったのである。すべての道はドムドムバーガーから始まる。よければ今度、みんなでドムドムバーガーに集まりませんか。