青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

大童澄瞳『映像研には手を出すな』1巻

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『映像研には手を出すな』は抜群に面白い漫画である。こちらがデビュー作という大童澄瞳はなんと若干23歳。まさに「新星、現る」である。

浅草みどりはアニメ制作がやりたいが、一人では心細くって一歩が踏み出せない。
そんな折、同級生のカリスマ読者モデル、水崎ツバメと出会い、実は水崎もアニメーター志望なことが判明し・・・!?
金儲け大好きな旧友の金森さやかも加わって、「最強の世界」を実現すべく電撃3人娘の快進撃が始まる!!!

アニメーション制作×女子高生、となると今井哲也ハックス!』(2008)

ハックス!(1) (アフタヌーンKC)

ハックス!(1) (アフタヌーンKC)

という傑作が既にあるわけですが、負けず劣らずの文化系青春活劇の誕生の予感。浅草みどりのイマジネーションによって、日常がシームレスに"最強の世界"に切り替わる。その跳躍のダイナミズムが最大の魅力だ。かと言って、アニメーションが退屈な日常からの逃避、というような描かれてかたはしていなくて、主役3人がしっかりと学生生活を謳歌しているのもいい。


絵柄、キャラクター、コマ割り、あらすじ展開、センス溢れる台詞廻し、メカや美術の細部の異様なまでの緻密な描き込み(メカの図解ページも楽しい!!)etc・・・あらゆる点に魅力があって、どこから褒めればいいのか困るほどである。しかし、何と言ってもずば抜けた空間把握能力だろう。1コマ1コマに奥行きある世界が広がっていて、その連なりが世界をより豊潤なものに変容させていく。

学校へ繋がる橋!
経緯不明の高低差!
水上に建てられた校舎!
度重なる増改築によって校内は複雑怪奇!
まさに公立ダンジョン。

というような豊かな立体感覚を持った校舎(ぜひコミックスを手にとって目撃して欲しい)を、浅草みどりと金森さやかの2人の女子高生が双眼鏡で見つめている。何やらまるでカリオストロ城を見定めるルパンと次元のようだな、などと思っていると、そこに黒服に追われる財閥令嬢嬢が現れ、冒険が始まっていくわけだから、やはりここには『ルパン三世 カリオストロの城』(1979)の息づかいが潜んでいる。単行本の帯には

ドラえもん宮崎駿、そしてザリガニが好きな人、集まれ!!

と大胆に表記するほどで、大童澄瞳は宮崎駿という巨人への敬意を微塵も隠そうとしない。
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例えば、この浅草みどりがイマジンする"最強の世界"の一枚絵はどうだろう。気持ちいいほどに、宮崎駿のフェチズムを継承していやしないか。劇中において、主人公が初めて「アニメを作る人」を意識した作品として、『未来少年コナン

未来少年コナン 1 [DVD]

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を登場させるほどの、衒いのないまっすぐな愛がここにはある。新しい世代の到来、という感じだ。それは決して上辺だけのジブリ愛ではない。例えば、アクションの連鎖で語っていくあの宮崎駿の話法が、大童澄瞳の筆に落とし込まれているのが伝わってくる。作者が描きたい画(もしくはアクション)に向けて、物語が突き動かされていく。それが今作に通底する快楽性の秘密だろう。


それでいて、部設立承認の為の教師との駆け引きや、部室の掃除に補修(ジブリ!)、部費獲得の為の生徒会との対決、など文化系青春ドラマの王道のツボもしっかりと押さえてあります。絶対的にオススメ!

映像研には手を出すな! 1 (ビッグコミックス)

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