青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

ロロ『校舎、ナイトクルージング』

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ロロ『校舎、ナイトクルージング』を横浜STスポットにて鑑賞。「いつだって可笑しいほど誰もが誰か愛し愛されて第三高等学校(いつ高)を舞台にした、連作群像劇」を描くプロジェクトの2作目。高校演劇のフォーマットに則り作られていて、上演時間は60分以内。舞台の仕込みも、制限時間10分を設け、演者自身で行われ、その様子が披露されている、というのは前作『いつだって窓際であたしたち』と同様です。前作も大変素晴らしかったが、それを更に飛び越える傑作ではないだろうか。作家・三浦直之の黄金期が到来している!と興奮を抑えられません。もう本当に大好きで、ロロマナーに則り、好きなので好きとただ叫び続けていたい気分なのですが、せっかくなので、何がどう好きなのかを書き記していこうではないか。勿論、そうしなかったとしても、この作品が好きだという気持ちは、決して消えてしまうわけではないのですが。


重要なモチーフとしてラジオが登場する。オールナイトニッポン(二ッポン放送)を聴く男の子と、JUNK(TBSラジオ)を聴く女の子が出会う。念の為に説明しておくと、オールナイトニッポンとJUNKというのは月曜日から土曜日25:00~27:00に放送するこの国を代表する深夜ラジオであり、互いに裏番組同士なのである。表と裏。つまり、この2人の「ボーイ・ミーツ・ガール」は、本来重なり合わない者同士の出会いである。オールナイトニッポン派の男の子は、1枚の心霊写真を巡って、仲良し3人組で深夜の肝試しを校舎で決行する。暗がりの中へ、懐中電灯と携帯電話のライトが照らされるオープニングで、「あぁ、スピルバーグだ」と瞳を濡らしてしまう(のは、実にスノッブな行為なわけですが)。これはスピルバーグ映画であり、また東宝映画の『学校の怪談』であるわけでして、そうなると思いだされるのは『学校の怪談2』(1996)

の名台詞

夜に誰かと遊ぶと
昼間よりずっと仲良くできるよね

であるからして、もう無条件に大好き!と叫びたくなるのを押さえられないわけです。JUNK(とりわけ構成作家の笑い声を)を偏愛する女の子は、登校拒否の為、昼間の学校にはいない。彼女は学校に盗聴器を仕掛け、昼間の”自分のいない”教室の音を採集し、それを再生しながら夜の校舎を徘徊している。そんな彼女の愛するゲームがメロディを集めて地球を救う『MOTHER2ギークの逆襲』(1994)

MOTHER2 ギーグの逆襲

MOTHER2 ギーグの逆襲

である事は必然と言えます。本作の最初のハイライトと言える、彼女が採集したメロディが再生され、夜の教室に昼間が立ち上がるシーン。これも、本来重なり合わない者同士の出会いである。この世界には無数の”物語”が同時に存在し、誰にも知られる事なく息を潜めている。幼馴染の女の子にも恋人と2人だけのごっこ遊びがあって、教室の中で目立たない(まるで亡霊のように)アイツにも教室では見せない陽気な一面がある。その何でもない尊さよ。


やがて、舞台の上では、”ここ”も”あそこ”も、クラスの人気者も登校拒否のあの子も、過去も未来も、生者も死者も、あらゆるものが、差異なんてまるで最初から存在しななかったかのように、同列に語られて、同じメロディを歌い出す。これは単なるユートピアみたいな風景だろうか。”受け入れる”という実にシンプルな運動1つで、貴方が過ごしてきた、もしくはこれから過ごしていくであろう学生時代に浮かび上るものなのではないだろうか。


劇中において”受け入れる”というモチーフは、在日韓国人をテーマにした行定勲『GO』や異常性癖者の青春を描いた塩田明彦月光の囁き』(1999)

GO [DVD]

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月光の囁き ディレクターズカット版 [DVD]

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といった映画作品の挿入によってそれとなく提示されているわけですが、それを徹底的に体現しているのがあの愛すべき将門だ。クラスの人気者でありながら、登校拒否の盗聴魔だろうと、幽霊だろうと、どんな人とでもすぐに打ち解けてしまう。その屈託のなさ、嫌味のなさには「こいつ、本当に青春1回目なのか?」と訝しくもなってきます。そんな彼が少し寂しそうに佇み、教室を見つめている。ラジオからサニーデイ・サービス「夜のメロディ」が流れ、舞台が暗転していく直前のシーンである。あの”まなざし”は何だろう。ロロがこのシリーズを通して描こうとしているのが”まなざし”であり、そのまなざしは“ここにあるもの”のみならず”ここにないもの”をも舞台上に浮かび上がらせてきたわけですが、今回のシリーズにおける最も大きなまなざしというのは、三浦直之、もしくは観客である我々、とうの昔に学生時代が過ぎ去っていった者達の”まなざし”なのではないだろうか。10年間教室に彷徨い続ける、まさに”青春ゾンビ”な幽霊も今作に登場するわけですが、実はあの将門こそが我々なのでは、という気がしている。青春を見つる私達。そして、時に青春は見つめる我々を見つめ返し、ビュンと10年の時を超え、心を救ってくれたりするのだ。はてさて、最後に高校生の皆さまに伝えたい。私達のまなざしを通した貴方達の過ごす”今”は、かくも眩しく愛おしい。いつだって可笑しいほどに。



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