『フルーツアンドべジーズのいちねんめ』というCD-R音源を愛聴している。ギター、ピアニカ、木琴、リコーダー、その他身の回りの物をせーのでドカポンと鳴らしたトイポップ。演奏動画を見てみると缶とバケツ(スヌーピー!)を打楽器として使っているではありませんか。
日常の延長上、まるで鼻歌のようなメロディを奏でるガールズデュオである。整えられたウェルメイドなポップスではないのだけど、童謡とか”みんなのうた”のようなイノセンスな歌心にドキリとしてしまう。ローファイな飾り気のなさも、いつでもどこでも再生したくなってしまう所以でしょうか。やる気なさそうだけど無敵なガールズって感じはヨシノモモコのtirolean tapeなども彷彿とさせる。
彼女達の歌のおもしろい所はその過剰なレペゼン性だろう。
みんな大好き この町の名は
栃木県足利市
だけど私は群馬県民 住んでるところはもりたまち
それでも今日もここに来ている 足利サウンドハウスピコ
「ピコのうた」
小さいころ 住んでたあのまち
さびしげな あの商店街
どうやら今も変わってないみたい
大人になったらまた住みたいな
「きりゅう」
「花小金井」
とにかく、生まれた場所、住んでいる場所、よくいる場所を綴りまくっている。極めつけは森高千里の「渡良瀬橋」のカバーだろう。
渡良瀬橋で見る夕日を あなたはとても好きだったわ
きれいなとこで育ったね ここに住みたいと言った
誰のせいでもないわ あなたがこの街で
暮らせないことわかってたの
なんども悩んだわ だけど私ここを
離れてくらすことできない
恋人よりも地元を選んだ女性の哀愁を歌った名曲を。育った土地への執着がこのカバーの選曲にも見出せる。そう思うと”フルーツアンドベジーズ”果物と野菜というその土地の恵みをユニット名に冠しているのも面白い。*1彼女達のその土地や生活に対する姿勢が、ゆるーい音色の中に、ポップミュージックの普遍性を獲得させてしまっている。前述の森高千里の他にも「オバケのQ太郎のテーマ」のカバーなんて、どうにも泣けてしまう。
いまいち情報が少なくて彼女達の活動拠点が今どこにあるのかもよくわからないのですが、なんでも足利の雄car10とも親交があるようで(クレジットを見るとこの音源にも1曲参加している)、何やらパンク/ハードコアシーンからの寵愛を受けているようだ。また、彼女達をよりいっそう信頼してしまうのは、シークレット的に収められた無題のラストトラックだ。
あの子は一人と笑ったが
ふと私も寂しい時がある
楽しい時間が終わったら 帰り道私は一人ぼっち
たくさんの人と一緒にいても
ぽっかり空いている 穴があるの
ぼっち ぼっち ぼっちぼち
この感性は、パーティーや打ち上げの様子を綴っていても「シークレットホームパーティー」や「アンダーグラウンドサマー」(夜中に河原で集まって仲間と歌っていたらアルソックに怒られる、というストーリーメイク)など、どこか寂しさが宿っている。
*1:歌詞カードによりますとユニット名は従業で習った「果物と野菜をもっと食べようプロジェクト」に由来するそうです。