青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

座二郎『RAPID COMMUTER UNDERGROUND』


サラリーマンである作者の座二郎が、その通勤時間を使って完成させた”地下鉄”の漫画である。はっ、まさか「座二郎」ってペンネームは「地下鉄の座席に"座"って漫画を書く男」みたいなイメージに加えて、『地下鉄のザジ』のもじりなのか!?という気づき。

地下鉄のザジ (中公文庫)

地下鉄のザジ (中公文庫)

超クールじゃないか。いや、待てよ、念のため調べておこう。「地下鉄のザジ 座二郎」とgoogleで検索。なんと、地下鉄漫画を書き始める前から「座二郎」と名乗っていたそうです。あっぶねー。もうちょっとで「なるほど、座二郎の作品からは、レーモン・クノーシュールレアリズムを感じなくもない」とか適当な事書いて恥かくところでした。しかし、「シュールレアリズム」という形容は『RAPID COMMUTER UNDERGROUND』にふさわしいようにも思う。ラフながら幻想的なタッチでもって、この現実を”夢のような”世界にトレースしている。文房具屋を営むワニ。22時発の東西線の中に洗われるBAR。サラリーマンの像。ウサギと亀の回転寿司・・・圧倒的な構図と緻密な描き込みで構成されるイマジネーションに富んだコマの数々。しかし、それらは作中の言葉を借りれば「リアルな人生をほんの一部切り取ったもの」だ。例えば、東京メトロ「丸の内線」が茗荷谷駅で地上に出て、まるで電車がフワっと上がったかのように感じるあの瞬間。そういった日常の小さな興奮や煌めきを、座二郎先生は丁寧に掬いとり保存する。そして、それを「空飛ぶ電車」として表出するのです。


作中が進むにつれ、現実と幻想の振り子関係は乱れ始め、どこでもない場所に辿り着くような感覚を覚える。冒頭で執拗に繰り返される「これはフィクションです」という作者の言葉が効いてくる。宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』を例に出すまでもなく、列車というのは、そういった場所に連れていってしまう装置なのだろう。そもそも、通勤電車という、「家」でも「職場」でもないどっちつかずの空間はまさに、日常の空洞であり、「どこでもない場所」を表現する舞台に最適だ。作品は「TO BE CONTINUED」という事ですので、次巻に刊行も心待ちにしようではありませんか。最後に細部について。座二郎先生の書く「手」と「ネクタイ」がむちゃ好きです!

RAPID COMMUTER UNDERGROUND (ビッグコミックススペシャル)

RAPID COMMUTER UNDERGROUND (ビッグコミックススペシャル)