青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

山田尚子『映画けいおん!』


カメラワークや光の感度の素晴らしさ。そして、台詞ではなく画で演出を積み重ねていく、映画的な志の高さ。たとえば、飛行機の座席の肘かけを上げる唯、それを無言で下す梓。真夜中に1人起きて携帯を眺める律。言葉を添えれば、何かしらドラマを無数に発生させられそうな状況を平然と、画のみで放っておいてしまえる演出。禁欲的だからこそ圧倒的にリアルだ。


卒業旅行としてロンドンへ行く軽音部。ロンドンは「劇場版」の為の大掛かりな装置ではない。重要なのは、ロンドンと日本の時差だ。時差という概念への唯の勘違いが物語にエモーションを宿す。

日本からロンドンへ旅行する事=過去へ逆戻りする事?

学生生活が終わってしまう事への抗いの意思がさりげなく刻まれる。ロンドンで最初に乗車するタクシーで、唯が進行方向とは逆向きに着席している点も見逃せない。


到着した空港の手荷物ベルトコンベアーは回っている。突如、演奏をする羽目になったロンドンの回転寿司屋、街の全景を見下ろす事のできる観覧車、とにかく回っている。果てにはホテルのコネクティングルームを利用した唯とあずさの回転の戯れ。その回転はやはり、時計の針のようで、時間が流れていってしまう事を示唆している。澪が回転を必要以上に恐れるのは、そのことに気づいているからだろうか。しかし、どうだろう、それらは全て緩やかに循環しているではないか。この”円”のイメージはロンドン旅行前から頻出している。部室で食べたバームクーヘン、家で唯が撫で回すミカン(食事前なのに!)、憂が持ちながら回すお盆etc・・・・そして、担任であり顧問であり軽音部のOGである佐和子先生を神出鬼没に登場させる事で、いくつかの”繋がり”のモチーフを散在させていく。「続いていく」、その確信を抱き、未来(=日本)に向けて5人がメールを送るシークエンスこそが、山田尚子流のクロノスへの抗いだ。