青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

カンパニー松尾『テレクラキャノンボール2013』


当初はかなりの距離感を抱いていた。AV監督、女優という職業に色眼鏡を持っていた事を正直に告白せねばならない。しかし、映像を見続けていく内に。彼らが真っ当な感覚を持ち合わせている事に気づく。加えて彼らは、大変に愉快でチャーミングな連中だ。いつの間にか、この旅に同行できる喜びを覚えてしまう。”普通の人”であるはずなのに、彼らは常人では理解できないモチベーションでこの大会に挑む。避妊具なしのセックスや飲尿食糞を厭わない。彼はセックスがしたくてたまらない10代の男の子ではない。勝利しても、地位や名誉が待っているわけでもなく、賞金も出ない。賞品という名目で、AV女優である神谷まゆと新山かえでとのご褒美セックスが用意されてはいるが、今更それがモチベーションになるような連中ではないだろう。「ヤルかヤラナイかの人生なら、俺はヤル人生を選ぶ」という、わかるようでよくわからないコピーがる。彼はとにかく理由もなくヤルのだ。ただひたすらに移動して、ひたすら腰をふる。

もう、この夏は戻らない

というテロップからもわかるように、カンパニー松尾はその移動で、“時の流れ”を描き出している。そして、その不可逆性を肯定している。ディスク2の終盤、帰りのフェリーに乗り出すと、作品が不思議なトーンに包まれ出す。“りん“という女性が登場する。松尾が出会い系サイトで知り合い、「明日、一緒にフェリーに乗って東京へ行く」という無茶苦茶な条件を飲んでくれた素人さんだ。そして、レースの賞品である神谷ゆまという女優の質感が不思議なのだ。まるで「もうこの世にいない人」のように撮られている。「もしかして、この神谷ゆまという女性はこの後亡くなってしまったんじゃないか?」とネットで検索してしまったほどである。調べてみると死んだのではなく、AV業界を引退していた。漂っていたのは死臭ではなく、神聖な何か。カンパニー松尾(とおそらく嵐山みちる)はりんと神谷ゆまを、”天使”のように演出している。

港が近づいてきた船のデッキに駆け出す神谷ゆま。光の方角目がけて船内を駆けていくその姿は途方もなく美しい。また、松尾は“りん”という女性に、北海道から東京という長い“移動”の結末として、美しい花火を用意してあげる。ここに、松尾なりの「移動=時の流れ」の肯定を見た。