青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

『ぼく脳漫画』について


ぼく脳の漫画に衝撃を受けています。作者は「ぼく脳」という芸名のピン芸人。かつてはよしもとクリエイティブエージェンシーに所属していたらしい。吉田戦車相原コージー、いがらしみきおさくらももこ榎本俊二漫☆画太郎天久聖一、おおひたごう、野中英二、うすた京介増田こうすけ・・・ギャグ漫画のレジェンド達が積み上げてきた歴史が一瞬で吹き飛んでしまったような気分になる。遠くかけ離れた事象を暴力的なまでのスピードでぶつける。無意味と無意味がくっつく事で、これまで閉じられていた扉が開いていくような感覚。何よりすさまじかったのは、ラディカルな表現でありながら、意味がわからないどころか、全てがわかり過ぎるほどにわかる(ような気がする)所だろう。なんせ、冒頭か最後に文章で「確かにそうだ」としか思えない解説がちゃんと載っているのである。



この不条理な世界で、わからない事が1つもない。錯覚かもしれないが、その万能感が心地よい。「谷亮子のお墓を改造」「ウルトラマン下校」「逆閣寺」「食事をはやらせたい」だとかいったフレーズの発想の凄味を論理的に実証する手立てが見当たらないので、これはもう”才能”の一言で片づけたい。絵のヤバさに関しては精神分析が必要になるレベルな気もするが、サンプリングコラージュの的確なセンスを見るに、至極まともな人なのだろう。


とにもかくにも、こんなものはこれまで見たことがない。この読後感に1番近いのは”悪夢”だろうか。うなされるような生理的な気持ち悪さがある。しかし、夢は自由だ。全ての芸術表現は夢のあの自由性と全能感を再現する試みである、という暴論もあるくらい。確かに、ぼく脳の漫画表現は何の制約も受けていない。あらゆる枠組みからはみ出、全ての事は起こりえるという可能性に満ちています。この孤高の表現の前に「シュール」という形容詞はまるで意味を為さないだろう。こんなものを今後もハイペースで量産し続けられるはずがない、と思いながらも新作を期待したい。これが1番好きかもしれない。火に死刑が宣告されたコマのチルアウト感。