青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

『happy voice vol.2』山下達郎×空気公団

今はそんな事ないのだろうけど、ある時期までは空気公団というバンドを紹介する際に必ずと言っていいほど「あの山下達郎も絶賛」という文字が躍っていた。「なるほど、そうなのか!」とは思っていたものの、実際の所、達郎さんがどういう風に空気公団を評していたのかは謎のままでした。しーかし、ついに先日、重要な文献を入手する事に成功したのです。2000年(14年前!)に刊行された『happy voice』という雑誌のvol.2でございます。こちらに山下達郎×空気公団の対談が掲載されているのです!
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不勉強で『happy voice』というこの雑誌の存在すら知らなかったのですが、なんでも新宿ロフトで開催されている同名イベントの為に発行された雑誌だそうで、ロフトのスタッフとコアグラフィックというデザイン会社が共同で刊行していたようです。編集やデザインの中心はデザイナー兼Spangle call Lilli lineのギターの藤枝憲。何号まで刊行されたのかは謎です。さて、そのvol.2ですが、ブレイク前夜のBUMP OF CHICKENがインタビューで「ライブで写真を撮るのは止めて」と憤っていたり、メジャーデビューを決めたHARCOがインタビューや企画(イチゴ狩り)ではしゃいでいたり、ヨシノモモコやbright eyes(!!)のインタビュー、枡野浩一の短歌講座が掲載されているなど興味深い記事が目白押しなのですが、目玉はやはり冒頭にも述べましたように、山下達郎×空気公団の対談であります。f:id:hiko1985:20141006113143j:plain
空気公団は当時若干24歳。

ここだよ

ここだよ

呼び声

呼び声

くうきこうだん

くうきこうだん

ミニアルバム『ここだよ』『呼び声』、フルアルバム『くうきこうだん』といった傑作を続々とリリースしていた時期で、未完の大器としての才能を炸裂させていました。しかし、メジャーデビュー前の新人相手の対談に山下達郎を召喚できる藤枝憲、恐るべし。貴重な資料ですので、少し編集して抜粋させて頂きます。おすそわけです。

山下:最初に曲を聴いた時に、どんな人達なのか、何人でやっているのかも知らなくて、あとになって女性3人と男性1人だって初めて聴いて、めずらしいね。男子1人はかわいそうにねぇ(笑)


戸川:なんとか、大丈夫です(笑)


山下:いろいろ聴かせてもらったんだけど、単純な感想ですけどどれも素晴らしい楽曲だと思いますよ。これはホントそう思う。僕、最近の若い人の事ってそんなに分からないから(笑)ルーツとか全然分からないし、どういう動機でああいう音楽をやってるのかも分からないんだけど(笑)曲は何で作っているの?


山崎:基本はキーボードで作ってるんですよ。


山下:ピアノは昔から習ってたの?


山崎:ピアノは習ってなくて、ずっとエレクトーンを習ってたんです。


山下:あなた達のバンドはレコーディングしかしないんですよね。ライブやらないって言ってる訳だから(笑)で、ドラムとベースがあって、キーボードがあってギターがあってという編成で、もし僕だったらこのバンドにはドラム入れない。曲は本当に素晴らしいと思うし、ギターとキーボードも素晴らしいけれど、ドラムがね(笑)どうしてこんなに素人なんだろうと思ったの。


戸川:実はその素人っぽいドラムは僕がたたいてるんですよ。


山下:あぁそうなんだ(笑)


戸川:それは本当に初期の頃で、誰もやってくれる人がいなくて。


山下:それでなんだ。リズムセクションが曲の表現したい事に全然ついていってない、っていうのが幾つもあって、それだったらドラムなんてなくてやった方がいいんじゃないかなって単純に思ったの。最初ってドラムなかったでしょ?この1曲目とかさ。どうして全部こういう感じでいかないのかな?って。逆にこういうアレだったら、例えば808とかのドラムマシーンでもいいんじゃないかなって。スウィングしてるワルツのあったじゃないですか。ああいうのだったら、もう外人とかの上手いドラマーとかがいいって思うけどね。ジャズのミュージシャンか、例えばスティーブ・ガッドとかね、ああいう様なジャズドラムの人を引っ張ってきてやったら、すごいモノ出来ると思うけどね。曲のグレードとか、うわものに関してはその位の感じはもう既にあるから。


戸川:この曲とかは違う人がやってるんですよ。


山下:新しいこっちのCDになると、上手くなってるよね。ドラムの人を変えたのかなとかね。これは違う人なんですか?


戸川:いや、これとこれは同じ人ですね。


山下:じゃあ上手くなってきたのね(笑)スタジオはどこで録ってるの?


山崎:普通の練習スタジオです。ハードディスクレコーダーで。


山下:どこの使ってるの?


戸川:ローランドですね。


山下:ミキサーは自分達でやってる訳?


戸川:そうです。全部自分達でやってます。


山下:完全なホームレコーディングなのね?


戸川:そうですね。


司会:そこら辺はどう思いますか?これからどうしたらみたいな事は。


山下:いや、僕は別に(笑)言おうと思えば言えますけど、今のこの状態だからこその良さは既にあるからさ。それに、私とあなた方は同じじゃないから。言おうと思えばいくらでも言えるし、言わないでおこうと思ったらいくらでも言わないでおけるっていうのが音楽だと思うんですよね。だから僕が「ああせい!こうせい!」って言ったところで、あなた方がそれに従う必要もないし、従うとも思えないしね(笑)山崎さんていうのは凄く意志の強そうな、見せて頂いたビデオとか見るとね(笑)絶対そういう事聞きそうもないっていうか。<中略>不思議な音楽だよねぇ。僕の正直な第一印象は、僕が20歳位の時にこういうことをやっている人達が何人かいてね。例えば、矢野顕子とか大貫妙子を足して、それがシュガー・ベイブをバックにやっている風に聞こえる。でもシュガー・ベイブより良いんじゃない(笑)


一同:お〜(笑)そんな〜


楽曲をベタ褒めする達郎さん。そして、飛び出す「シュガー・ベイブより良い」発言。しかし、メンバー全員揃っている前でいきなり「ドラムは外せ」という達郎さん凄いです。戸川さんはドラムの専任じゃないので、まぁよかったわけですが、専任のドラマーだったら、泣いちゃうんじゃないでしょうか。バンドへのアドバイスを求められて「僕は別に」と言っておきながらも、そもそもその前に「外人のジャズドラマー使え」とか無茶なアドバイスを飛ばしまくっている達郎さんがかわいいですね。続いて、達郎さんが想う空気公団の不思議から、音楽のおけるボーカルと録音の関係、歴史の論が展開されます。

山下:あなたの歌の感じだと、このCDでのドラムとベースのアレンジはライブで成立しない訳。試しにアップテンポの曲、ライブハウスでやった事ある?そうすると、ライブで1番音が通らないのはボーカルだから。全く声が聴こえないっていう状況が出現する。ドラムとベースが後ろで力任せにやってるから。そうすると、ライブで成立する声って通る声じゃないと駄目なの。アール・クルーっていうジャズのガットギターの人がいるんですけど、ガットギターなんかはリズムセクションとやる場合にはマイクを立てないと聴こえなかったから、普通のドラムやベースだと音量的に負けるんですよ。ところが、80年代の頭にアール・クルーのレコードが一世風靡した時代があってね。それはレコーディングでガットギターが目の前にあるっていう音像をレコードでは作れたから、すごくバーチャルなのね。で、あなた方のバンドも同じような作り方をしてるんですよ。分からない所で無意識にやってるんだろうけど。初めからまず録音ありきでやってるから、ここに歌があってドラムが後ろで大音響でやってても、僕らにとってはすごくそれがポストモダンな響きに聴こえるんですよ。だからそういう事も含めて、すごく不思議な音楽という意味。で、それは分かるんだけど、だったらこの曲の作り方はどっから出てきたのかっていうのがね・・・。


山崎:う〜ん・・・・思いつきかな?


山下:ははは(笑)


山下:何度も繰り返しになりますけど、曲は何も言うことないと思いますよ。ステージやらないって聞いて、だったらバーチャルでいいと思う。僕にとって音楽作るっていうのは、完成型っていうのが自分の中にあって、それにどれ位近接させるかっていうさ、そういう作業なんですよね。音楽っていうのは非常に数学に近く感じですね。必ずファイナルな解答に向かってやる、っていうね。<中略>音楽っていうのは自分の中に響きっていうのがあって、そのために作曲法をならってアンサンブルをやるじゃない。だからそういう様なことを意識して作ってるんだろうなって、必ずすぐ思っちゃうから。だから山崎さんみたいに「曲は思いつきで書いてます」とか言われると困っちゃうんだけど(笑)


司会:いや〜でもきっと考えてると思うんですよねぇ。


山下:きっと考えてると思うよ。じゃなきゃいきなり歌がこっちに飛んだりしないもんね。で、どうして飛ばせようと思う訳?それも思いつきなの?


山崎:何だろうなぁ・・・本当は多分こういう風にしようっていうのが見えてるのかもしれないけど。でもそれでもメンバーとかの色んな個性を出してもらって・・・出してもらったモノがやっぱり私の考えてるモノと違ったりする時もある。


山下:彼女1人に全部、詞と曲は任せっきりなんですか?


戸川:そうですね、でもアレンジはみんなでやってます。


山下:少なくとも言えるのは、パターンミュージックじゃない訳。パターンミュージックって言うのは、例えば宇多田ヒカルとかね、ああいうR&Bって言われる音楽はダンスミュージックだから一定のビートがずーっと長く続かなくてはならない。だからテクノもR&Bも踊るための音楽だから、途中でリズムがチェンジしたり、ブレイクしたら踊れないから。まぁそいういのは盆踊りと同じね。そういうものとは全く対極にある音楽だと思うの。宅録で始めたっていうのがね。レコーディングの世界でこういう具合にテクノロジーが発展したのって、60年代の話で。あの頃にもこういう音楽ってたくさん出てきたのね。実はね。それまでは録音っていうのは単なる実演の再現作業でしかなかったの。だから30年代のスウィングジャズとかっていうのはレコーディング始まってまだSPっていう78回転のすごく分厚くて重いヤツがあってね・・・見た事ない?SPレコード。あれは電気じゃないの。あれは針から直接、振動盤がホーンにつながってて、そこから音が出てきて、スピーカーすらないから。で、一切電気がないから手回しでね。持ってくれば良かったね。その時代はね、本当に生演奏のバランスをそのまま録ってやるだけだから。そういう時代がずーっと続いていたんだけど、レコーディング技術が発達して、マイクの技術も発達して。大昔は電気もマイクもPAもなかったし、生音が届かないと駄目だからオペラだった訳よね。楽器の音量と張り合うために”ベルカント”っていって、身体中共鳴させる発声法じゃないと駄目だった。マイクの性能が発達するにつれて、オペラみたいなベルカンティックなものじゃなくて、もっと地声で囁くように歌う声でも楽器と競争できる様になったのね。そこで生まれたのがクールナー(おさえた低い声でささやくように情緒をこめて歌う流行歌手)といって、例えばピング・クロスビー(代表曲「ホワイト・クリスマス」で知られるマルチエンターテイナー)とか。元々歌っている人なんだけど、ダンスして踊れる人。だからMGM(アメリカの映像制作・配給会社)の、例えば・・・ミュージカル映画って観た事ないかなぁ。『踊るニューヨーク』(1949)とかさ。そういういわゆる、映画のミュージカルの大スターなんだけど。それからフランク・シナトラとかね。ディーン・マーチンとかね。その人達って40年代、50年代。そういうのは囁く様な優しい声で歌うんだよ。それでも、後ろのバンドとなぜ張り合えるのかって、マイクがあるから。まぁ簡単に言えばそういう事なんだけど。あなた達のは言ってみればそういうバーチャルな、不思議さっていうか。そういう自覚全然ないだろうけどね(笑)


一同:ははは(笑)


小山:全然ないかな(笑)


ダンスミュージックに関するうんぬんはかなり怪しいものがありますが、録音技術と発声に関する薀蓄は面白い。しかし、不思議がり方が回りくどすぎやしないか、とも思ってきます(笑)ひたすら話しまくる達郎さん。ほとんど身のある返答ができない空気公団のニューエイジ感は更に加速していきます。

山下:ここ何年か見た人の中で1番普通の人達。


全員:そうか〜(笑)


山下:本当そうですよ。一見普通そうに見えて、何ていうか、この音楽は狂気、っていうかかなり狂気があるからさ。


小山:「キョウキ」って武器の凶器ですか?


山下:違うよ(笑)


司会:すごいボケだな(笑)


山下:作曲とかはどうなの?


山崎:一応、作曲の科には、いたんですけど。うちらの世代って小さい頃からピアノ習う人が多くって。


山下:じゃあさぁ、評論家みたいな質問だけど、何が好きなの?どういう音楽を聴いて、普段の生活をしてるの?


山崎:普段・・・普段はあんまり音楽を聴いてないような・・・


山下:う〜ん・・・(苦笑)じゃあ、詞が先なんですか?


山崎:一緒に考えてます。


山下:本とか結構読みます?


山崎:読まないですね。


山下:何だよ(笑)もう、全然分からないよ。不思議だねぇ。時々いるんだよね、そういう人。時代かなぁ・・・不思議だなぁ。僕25年やってますけど、25年前はあなた方のセオリーでは絶対音楽作れなかったし、もしくはプロになれなかったね。それだけは確かで、でも、もう25年経っちゃったね。人殺しても25年経てば時効になっちゃうもんね(笑)僕、イースタン・ユースっていうバンドがとっても好きでね。あの人達はすごく文学者の様な言葉使うし、英語、横文字が1個も出てこないしカタカナすらも出てこないんだよね。そのカラーに大正デモクラシーの頃の文学とか読んでるんじゃないかと思ったけど、北海道の何かえらい孤島か何かで育った人みたいで。高校を途中で辞めたとかそういう世界なんだよね。それでこの詞書いてるんかってね。狐につままれた様なそんな感じ(笑)同じように君らもよく分かんないもんねぇ。<中略>僕は基本的に音楽の教育も受けてないんですけど、一応ブラスバンドで6年やってて、パーカッションはある程度の知識はあるんですよ。だから本職はドラマーだったんですよ。だからリズムに関しての興味ってすごくあって、ドラムとベースのコンビネーションとか、パターンとか。僕はいわゆるアメリカとかイギリスの洋楽を聴いて育った人間で、日本の音楽はよく知らないの。カラオケ行っても。日本語の曲はほとんど歌えないっていう。


山崎:え〜カラオケとか行くんですか?


山下:時々ね。


全員:え〜(笑)


山下:自分の意志じゃ行きませんよ(笑)人に無理矢理連れて行かれるんですけど。歌う歌がなくってね。


司会:自分の歌を歌えばいいじゃないですか(笑)


山下:冗談じゃないよ(笑)ほらカラオケってみんなピッチ下げてるあるから、自分の歌とか全部+5にしてもまだ低かったりするもん。しかもあんなオケじゃあ。そうすると、女の子なんかがいると、歌下手だねとか言われて・・・それであの点数出るヤツあるじゃないですか。38点とか出るもん。「もっと作ってる人の気持ちになって歌いましょう」とか。作ってるのオレだっての!


全員:うはははは(爆笑)


山下:ちょっと話がそれたけど、要するに60年代のおしまいっていうと、僕が音楽始めた時代っていわゆる学生運動の時代だったんですよね。で、学生運動の時代にみんな人生あやまって(笑)ドロップアウトしちゃった訳。本来大学行って、サラリーマンになるべき人間がドロップアウトしちゃって、行く所がなくなっちゃって。その時代に1番文化で力があったのが音楽だったのね。だから、あの頃ロックだ、フォークだって言ってたほとんどのミュージシャンなんか、やらなくていい様な人達で。それまではミュージシャンっていうのは、やっぱりちゃんと教育を受けて、練習をして。1日7時間ギターを練習してます、みたいなそういう人達が作ったものだから、技術的にはあるんだけど、アイデアっていうものに関しては、決まった事しか出来ないという部分もあったの。その所にミュージシャンやらなくていい様な連中がドッと入ってきたおかげで、あり得ないアイデアが出てきて、それで日本のロックとフォークがいきなりドァーッ!と爆発しちゃったんだよ。だからあなた方みたいに普通に人達っていうのがねぇ(笑)面白いね、なんか。本当にあなた達がキーボード弾いてるの?全部。


小山:そうですよ〜(笑)


山崎:何か嘘みたいですかね?


山下:う〜ん。だけどさぁ、ああいういわゆるサザンソウルみたいなフレージングも思いつきなの?


山崎:サザンソウルって・・・?


戸川:すみません(笑)あんまり知らなくて。


山下:じゃあきっと知らないうちに、どっかでサブリミナルみたいにある訳ね?(笑)


山崎:知らないうちに何かのサインが(笑)ふふふ。


山下:何だよ、それ(笑)ホントによく分かんないなぁ。やっぱり世代の問題なんだろうな。僕にしてみれば、こういうの作るって事は、心の中の音世界でかなりやりたい事を意図してるっていうかね、そういう風に見るからさ。例えば歌がここにあってさぁ、山崎さんが、キーをもう1音半位上げた方がいいんじゃないかと思う事がよくあって、でも、それも意図してんじゃないかとかさ(笑)全部、意図的なものでさぁ、ほら古い価値観で生きてるから(笑)


山崎:いやぁ、でもあんまり考えてないいですけど・・・


山下:だから意識的にキーを下げて、ここに置く歌を後ろでえらいビンビンのドラムがバァーッっていってるヤツが、そのアンバランス感覚が1つの意図した物だっていうね。僕なんかそういう感覚で聞くから。


山崎:あぁ、そうなのか。


山下:でも、そういうのは要するに考え過ぎな訳ね(笑)でも絶対何にも考えてないのは嘘だと思うよ、僕はね。


あまりの暖簾に腕押し状態にお手上げの達郎さん。カラオケやら昔話を始め出して、何だかよくわからなくなっています。「何も考えていない」と言うわ、見た目も普通だわ、な空気公団が何故こんな音楽を奏でられるのか、さっぱりわからん!というのは伝わってきますね。この後も、「メジャーから出さないの?」とか「ライブやるなら、どうやるのか?」とか達郎さんはたくさん理詰めで質問しますが、空気公団の返答は全部フワフワしていて、噛み合いません。2組共にどこまでもイメージ通り!いやはや、貴重なインタビューです。14年前の『happy voice』ありがとう!