青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

misono『家-ウチ-』

f:id:hiko1985:20171226102946j:plain
アルバムタイトルは『家-ウチ-』である。このタイトルが発表された時点では、「これはいよいよウチ(=misono)からハウスミュージックへの回答がなされるのでは?」という予感を胸に抱いていた。しかし、収録楽曲のタイトルを確認することで、その認識が大いなる誤りであったことに気づかされる。予想に反し、1曲目からROCKである。

1.ウチ!ウチ!ROCK~取り扱い説明書~
2.ホ・ン・ト・ウ・ソ
3.四六“時「己」中” キミ時間オレ時計~メトロノームの同期現象~
4.「...。」の続き~永遠なんてない... いつか終わりがあるけれど~
5.セカンドseasonガールFRIEND ~女友達?妹的存在?ただの幼なじみ?恋愛対象?友達以上?恋人未満?2番目でもない?好きでも嫌いでもない?都合のいい女どまり?~
6.61秒目のフラLetter 最後の初恋~コペルニクス的転回~
7.金魚救い~君はどのプリンセス?~
8.七夕☆ジタButterFly♪
9.恋つりGirl 愛ガァル~フィッシングBoy~
10.25時間~もしも1日が24時間ではなくあと1時間あったら...あなたは誰に何をしますか?~
11.願ティ部×1人∞脚
12.招待状♪BIGり☆ヤンチャはちゃめちゃくちゃ★オモちゃ~箱
13.ふたり占め わたし占め 「半分ずっこ」
14.ス・キ・ラ・イ

いや、それよりもこれは言語破壊ミュージックではないか。ウチ(=misono)はこれまでも多くの楽曲の作詞を手掛けている。しかし、今作におけるその充実は「ウチ(=misono)至上最高傑作」の冠にふさわしいだろう。これだけのタイトルが並んでも、そこに作為的なものは感じさせない。七尾旅人『雨に撃たえば...!disc 2』の衝撃再び、舞城王太郎も真っ青である。全14曲のタイトルを最後まで眺めてみると、リードトラックの「ウチ!ウチ!ROCK~取り扱い説明書~」に物足りなさすら覚えるから恐ろしい。"金魚救い"だとか"願ティ部"だとか"半分ずっこ"といった新しい日本語の登場に興奮するのもいいだろう。個人的に好きなのは「招待状♪BIGり☆ヤンチャはちゃめちゃくちゃ★オモちゃ~箱」もしくは「キミ時間オレ時計~メトロノームの同期現象~」あたり。口に出して吟じたい良さがある。


”61秒”、”25時間”もしくは”キミ時間オレ時計”など、既存のクロノスの概念を突破するような表現が目立つのも今作の特徴だろう。ウチ(=misono)が30歳を迎えた事も影響しているのかもしれない。無情な時の流れに対する怒りや悲しみのトーンは名バラード(に違いない)「「...。」の続き~永遠なんてない... いつか終わりがあるけれど~」に託されている。「ウチ!ウチ!ROCK~取り扱い説明書~」で元気にご挨拶をかました後、アルバムは「ホ・ン・ト・ウ・ソ」に始まり、「ス・キ・ラ・イ」に終わる。ウチ(=misono)が何やら2極で揺れていることが窺える。これはアルバム全体に貫かれているトーンだ。バラエティ番組での明るくおバカでおどけたウチ(=misono)と飾る事のないプライベートでのウチ(=misono)の間という偶像と本質で揺れ悩むウチ(=misono)の姿が浮かんでくる。この『家-ウチ-』というアルバムの、その揺さぶりの中で、我々は本当のウチ(=misono)を再発見するのだろう。そう考えると、これはジョン・レノンの『ジョンの魂』

ジョンの魂

ジョンの魂

以来のポップスターによるパーソナルな質感のアルバムの登場と言えるかもしれない。ジャケットも凄い。消費社会への警鐘を唱えた現代アートのようでもあるし、前世で深い業を背負ってしまったきゃろらいんちゃろんぷろっぷきゃりーぱみゅぱみゅのようでもある。このアルバムが1万枚売れないと、今後ウチ(=misono)は音源をリリースできなくなるらしい。ちなみに初登場オリコン順位は60位。やべーじゃないか。買わなくては!聞かなくては!と思えども、どうに難しい。1日というのは25時間ないのだから。