青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

華原朋美×小室哲哉 in FNS歌謡祭2013


昨年のFNSでの5年ぶりの歌手としての復帰、そして今年の夏のFNSでの素晴らしいパフォーマンスを披露していた華原朋美。彼女が15年ぶりに元恋人で元プロデューサーの小室哲哉と共演する、という下世話なトピックにまんまと感動させられてしまいました。そもそも番組が始まる前のネットのニュースで心動かされてしまいまして。

こんなことが起こるんだ。こんな日が来るんだっていう…

毎日(昔の)映像を見ましたし、服装から髪型から全部、その当時のことを思い出して、何を話そうかなと前日にいろんなことを考えた

という朋ちゃんの発言とかね。あぁ、15年経っても未だにそんなに大きい存在なのか、と。なんかもう泣けるじゃないですか。もうパフォーマンスが始まる前からドキドキです。披露したのは「I'm proud」と「I BELIEVE」の2曲。いやはや素晴らしかった。まずもって華原朋美の歌唱力の衰えなさ。30代後半あたりから歌えなくなる歌手が増えていく中、あの小室哲哉の無茶な高音の設定を乗りこなしている。ルックスの持ち直した方にもグッときたな。そして、あの当時から必要性を感じなかった小室のボソボソコーラスにも涙。最初凄く小さかったけど、徐々に大きくなっていって、彼なりに昂ぶっているのが伝わってきました。

I'm proud 壊れそうで崩れそな情熱を
つなぎとめる何かいつも捜し続けてた
どうして あんなに夢が素直に見れなくなってた?
街中で居る場所なんてどこにもない
体中から愛がこぼれていた

と歌う「I'm proud」は蜜月の関係の中歌われていた楽曲にも関わらず、まるでその後の2人を予見していたかのようだし、「I BELIEVE」なんて

輝く白い 恋の始まりは
とてもはるか 遠く昔のこと

と振り返るのだ。特に凄いのは「I'm proud」の

笑顔も泣き顔も全てみんな
かならずあなたに知ってもらうの

と15年分の空白を小室哲哉にぶつけるかのような熱唱だろうか。何よりも視聴者の心を捉えたのは、カメラに背を向け鍵盤を弾く小室哲哉に視線を送り続ける華原朋美の姿だろう。

なかなか交わらない視線。そして、ついぞ2人の視線が交わった時、カメラがぐるりと揺れ、15年という歳月が流れる。人生の残酷さ、そして美しさを体現したかのようなパフォーマンスだった。生きて行かなきゃね、という感じ。たのしくたのしくやさしくね


パフォーマンスを終え、朋ちゃんが「今まで迷惑と心配かけて本当にすみませんでした。これからはちゃんと前を向いて歩いて行けそうです。きょうはすごく楽しかったです」と小室に声をかける。小室は「頑張って下さい」と一言、そっけなく握手をしてステージを降りたわけだども、この言動に対し「小室は何様だ」と怒っている方が多くいるらしいですね。そんな輩の骨は犬に食わせておけばいい。元カノとテレビの前で15年ぶりにパフォーマンスしてくれというオファーを引き受けた事、そして演奏時のあの表情だけで充分ですよ。妻KEIKOだってテレビの前で「なんちゅうもんを見せてくれたんや」となっているわけですし。


思わず、小室哲哉ワークスの華原朋美シングルを聞き直してしまった。

Best Selection

Best Selection

これがとてもよかったのだ。当時、私はバリバリのアムラーだったので、「TK presents こねっと」など小室哲哉にべったりとくっついて美味しい所を歌う華原朋美に対し、どこかヒール的な印象を抱いていた。それに対して安室ちゃんはスーパースターだった。当時の小学生はわりとみんなそうだったんじゃないだろうか。そもそも華原朋美の揺らいだボーカルのよさが理解できなかったんですね。下手くそだとすら思っていた。しかし、今聞き直すとあの喧騒の「1990年代」の音を見事に体現したボーカリゼーションと楽曲だ。そういえば七尾旅人も「I'm proud」を「これは援助交際をする女子高生の歌なんだ」と言って熱心にカバーしていた時期があった。渋谷センター街、ガン黒メイク、ルーズソックス、エアマック、G-SHOCK、ポケベル、たまごっち、桃の天然、宮沢りえ湾岸戦争オウム真理教阪神大震災新世紀エヴァンゲリオンetc・・・いやはや本当にノイジーな時代だった。あの時代が鳴っているかのような「Hate Tell a Lie」なんか聞くと何だかバーっとあの時代の空気が匂ってきて、「あー朋ちゃんも私たちもサヴァイブしてきたのだな」と涙が出そうになりましたね。「I BELIVE」「I'm proud」は言うまでもなく、1stアルバムのタイトルトラックをシングルカットした「LOVE BRACE」も凄いし、「save your dream」「Hate Tell a Lie」の躁感もいい。「save your dream」の高音でどんどん音符がズレていくみたいな感覚の歌唱は衝撃的だったな。「LOVE IS ALL MUSIC」という小室×華原の関係性を全肯定したタイトルの7枚目も最高。メロのタイム感が歌ともポエトリーとも言えない感じでかっこいいのです。(上の動画ではないパートで申し訳ないけども)特に2番の「夜明けごろ 自転車を東口まで ほろ酔いの少し気分 取りにいってくるから」からの破綻寸前の美メロの気持ち悪さの中の気持ちよさときたら。8枚目「たのしくたのしくやさしくね」も泣けるのですが、ここらへんまでですかね、クオリティーが高かったのは。これからの朋ちゃんには中島みゆきのような歌手になって欲しいな、なんて思っていたのですが、2006年に既に中島みゆきに楽曲を提供してもらっているのですね。タイトルが「あのさよならにさよならを」だ。な、泣かせる。