青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

黒沼英之『パラダイス/雪が降る』


パラダイス(初回限定盤)

パラダイス(初回限定盤)

黒沼英之の1stシングル『パラダイス』がリリースされた。これは快心の一撃ではないだろうか。『イン・ハー・クローゼット』『instant fantasy』という2枚の習作を経て、この華奢な青年がいよいよ、ポップシンガーたる覚悟というものを見せつけるシングル。初回盤は4曲入りなり。

表題曲「パラダイス」は『凶悪』のヒットも記憶に新しい白石和彌の2010年監督作『ロストパラダイス・イン・トーキョー』にインスパイアに受けて作られた楽曲。

踊り続けるんだ 夜が明けるまで

抵抗としてのダンス、それを続けるその場所こそが、あらゆる抑圧から解放された桃源郷なのだ、と歌うナイーブな感性にそっと寄り添ってくれるようなドラマチックなナンバーだ。彼のように、安易に「永遠」を歌うのでなく、刹那の儚さに美しさを見出せるシンガーにポップフィールドで活躍してもらいものです。王道の展開で盛り上げるアレンジは前作のリード曲「ふたり」と同様に湯浅篤。YUKIのシングル諸作、最近ではClariSの楽曲アレンジも冴え渡るハイファイサウンドを操るJ-POPアレンジャーだ。リズム隊は何と玉田豊夢山口寛雄100sコンビであります。



しかし、なんと言っても言及せずにいられないのは2曲目に収録された「雪が降る」の存在だろう。この黒沼英之というシンガーソングライターには「槇原敬之のようなポップミュージックの強度を」という個人的な想いを託していたわけですが、その願いがついに果たされた。「90年代ポップスへのリスペクトを込めた」という今回の楽曲には槇原敬之の「雪に願いを」「冬がはじまるよ」と言った名曲への愛に溢れたオマージュが込められている。「雪が降る」はPVがないので是非店頭で視聴して頂きたいのだけども、イントロの音色、コード感だけで、ある一定の年代以上の方は涙でしょう!下手したらダサさスレスレのアレンジなのかもしれないが、単なるオマージュに陥らず、確かな「祈り」のようなものとして昇華されており、結果として久しぶりに全うな「J-POPミュージック」が登場したと言えるだろう。四季の匂いや色使いを、生活に潜む仕草や表情を詳細に描写し、「こうであったらいいのに」と誰もが願うであろうシチュエーションをロマンティックに響かせる4分ちょっとのファンタジー。詳細な描写は共感を遠ざけるのでは?いやいや、J-POPのラブソングを聞くという行為は、あったかもしれない過去、あるかもしれない未来を想って涙する事なのだ!暴言。メロディーの強度も間違いなくキャリアハイ。躍動している。アレンジは初期の宇多田ヒカルを支えた河野圭。完璧な90年代ポップス作りに奉仕している。このサウンドでリズム隊が生というのも新鮮。ドラムはあらきゆうこ、ベースは隅倉弘至(初恋の嵐)、とこちらも鉄壁の布陣だ。ポップスの魔法の領域に間違いなく足を突っ込んだ必聴のウィンターソングとなっております。レコメンド!