青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

『安堂ロイド〜A.I. know LOVE?〜』と庵野秀明


脚本は西荻弓枝。今や『ケイゾク』や『SPEC』の作家という印象だが、個人的には1994年の山口智子を主演のお受験ドラマの傑作『スウィートホーム』が小泉今日子の主題歌と共に印象深い。まぁサスペンスからホームドラマと、とにかく器用なヒット作家だと思うのだけども、この『安堂ロイドA.I. know LOVE?〜』はとても歪だ。『ターミネーター』『ガリレオ』『Q10』などの過去作品の意匠を意図的に拝借し、挙句『ドラえもん』の安い引用まで飛び出すセンスの低さ。そこにきて「敵は全部で10体いる」とのたまうコントテイストだ。木村拓哉柴咲コウは素晴らしいが、脇の役者の演技がひどすぎる。戦闘シーンの映像のチープさも格好の批判の的だろう。西荻弓枝の責任ではない。いかんせん関わっている人間が多すぎる。演出にはROBOT(『踊る大捜査線』シリーズなど)のスタッフが、更にはコンセプト協力や絵コンテに鶴巻和哉前田真宏、そして庵野秀明まで参加しているという。単なる名前貸し程度かな、と思いきや「庵野秀明」という記号が存分に敷き詰められているのだ。ここに期待したい。



今作のキャッチコピーは

僕が殺されても、君は絶対に護るから…。100年先もずっと護るから…。


「僕が守るから」と『ウルトラマン』のスペシウム光線を繰り出す沫嶋黎士(キムタク)。仕事をする時間は削れないけども、妻との時間を作りたい、という想いから自宅に仕事場を再現してしまうキムタク。

庵野秀明は学生時代に『ウルトラマン』の自主映画を作成し、自ら主演を務めている。故にスペシウム光線なんかは完全に庵野ファンへのサービスだと思うのだけども、庵野秀明はインタビューにおいて妻・安野モヨコに対してこんな風に述べている。

心の中心では、孤独感や疎外感と戦いながら、毎日ギリギリのところで精神のバランスを取ってると感じます。だからこそ、自分の持てる仕事以外の時間はすべて嫁さんに費やしたい。そのために結婚もしたし、全力で守りたいですね、この先もずっとです。

まさに、沫嶋黎士そのもの。安野モヨコの名作エッセイコミック『監督不行届』

監督不行届 (Feelコミックス)

監督不行届 (Feelコミックス)

のあとがきでも庵野秀明は「全力で守りたい」というコメントを残しており、どう考えても沫嶋黎士と安堂麻陽のキャラクター造詣の下敷きは庵野・安野夫婦だ。「アン」で韻まで踏んでいるわけです。沫嶋黎士のモジャモジャ頭+眼鏡も、もう何だか庵野秀明に見えてくる始末。うむ、庵野ならば、自分が死んでも未来から自分に似せたロボットを妻の為に送り込んでくるに違いない!というSF的説得力がこの歪な作品にとてつもない求心力を与えているような気がしないでもないのであります。