ジェームズ・マンゴールド『ウルヴァリン: SAMURAI』
まさか『X-メン』シリーズにこういった映画が現れるとは。侍、ヤクザ、忍者、お寺、神社、新幹線、パチンコ屋、ラブホテル、お箸、日本家屋、ローアングル、小津安二郎・・・歪められた日本文化が炸裂。なんせオープニングからウルヴァリン(不老不死)が第ニ次世界大戦中に長崎で原爆の被害に遭う所から始まる。そこで1人の日本兵を切腹から、そして原爆から救い、その日本兵が後に日本を牛耳る大財閥の会長となり、不老不死を求めウルヴァリンに再び接近、ヤクザや忍者を交えた大狂乱が始まる、という無茶苦茶な筋なわけであります。しかし、これがどうにも成立してしまっているのは、モチーフやマクガフィンなどを丁寧に散りばめて映画を作っているからだろう。驚異的な治癒能力を持っていたウルヴァリンの流れはずのなかった血が流れる。ユキオ(福島リラ)の赤い髪に導かれ、「火星探検」をモチーフにしたラブホテルの部屋の色合い、ノブローの赤パン、シルバーサムライのファイヤーソード、果てには何の脈絡もなく林檎まで飛び出し、次々に”赤”が繋がれていき、”血族”を巡る物語を転がしていく。更に、劇中、シンゲン(真田広之)の「この縦に長い島国は、電車も上りと下りの2本しかない」という言葉の通り、今作は”下りる”という運動で満たされている。そもそもの始まりが、原爆の”投下”による被爆から逃れるために、穴に飛び”降りる”所から始まるのだ。新幹線は東京から南へ下り、ほぼ全てのキャラクターが落下する。それは最愛の女性を殺してしまった(らしい)ウルヴァリンが堕ちていく様と呼応しているのでしょうか。彼が、決断を行った序盤と終盤のシークエンスは、飛行機による上昇が挟まれ、どこか再生を暗示している。まぁ、ありきたりと言えばありきたりだが、しっかりと映画的な作りだ。しかし、それを差し引いてもはっきり言って歪な映画なのですが、とにかく前述のインチキ日本文化の異形さが楽しいので一見の価値はありだそう。
『仁義なき戦い』へのリスペクトなのか、葬式でのヤクザとの乱闘から始まり、そのままひたすら東京の街を走り続けて新幹線に乗るまでの愉快さ。サービス精神満点。ここで「日本文化を何ら理解していない!」と憤慨してしまう人は、映画の運動そのまま、振り下ろされてしまうのかもれしない。