青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

浜口浜村『浜口浜村の悠々自適 多方面漫才ライブ編』


ジグザグジギーにはまって以来、マセキ芸能社の若手芸人にすっかりお熱なのだ。特に三四郎浜口浜村の2組の漫才の荒削りながらも枠に捉われないその自由さ、にも関わらずそれを成立させてしまうセンスにすっかりまいっている。エル・カブキやモグライダーの漫才も面白い。この流れは、七尾旅人がブログで紹介していた昆虫キッズに魅了され、インディー界隈のライブに通いつていた私の音楽個人史をなぞっているようだ。お笑いファン界のルールがわからないので、もしかたら事務所推しみたいなものは1番バカにされる行為なのではないか、など常にビクビクしている次第です。とりあえず若手芸人の自主ライブなどは500円や1000円など音楽のライブより俄然安くコストパフォーマンス抜群です。座って笑っていればいいだけなので、とにかく幸せな時間であります。そんな話はさて置き、浜口浜村の自主ライブ『浜口浜村の悠々自適 多方面漫才ライブ編』を新宿バティオスで観てきた。


浜口浜村。元名古屋吉本で現マセキユース。ユースと言っても、浜口浜村の芸歴は既に11年目を数える。決して若手ではないが、賞レースでは結果を残せず、人気にも火が着かずくすぶっているらしい。『オンバト+』に出演しても117キロバトルという信じられない結果。どこまで観客を敵に回せばそんな点数になるのだ。2011年は無期限の活動休止宣言までしていたそうだ。しかし、センスの塊なのである。この人達が芸人(なんでもキングオブコント2013の王者かもめんたる岩崎う大は昔から彼らを面白いと言ってくれているらしいですよ)と一部のお笑いファンの間だけで評価され、世間からは見向きもされないまま終わっていくというのは切ない。おぎやはぎを彷彿とさせるテンションの低い緩めの漫才。コンビ名の付け方も一緒だし、もしかして凄く好きなんじゃないだろうか、とGoogleに「浜口浜村 おぎやはぎ」と検索してみたらライブレポに「浜村さん曰く、(オンバトでの)おぎやはぎの漫才を、何十回もビデオが擦り切れるまで見てた」という記載を発見。

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「温度低めのシュール漫才」と書いてしまうと、スカした奴らと思われるかもしれませんが、そんなは事なく、むしろキュート。かつ強烈なお笑いへの愛、ひいてはカルチャー全般への愛が迸っている。客入れBGMは細野晴臣HOSONO HOUSE』が丸っと流れていた。幕間ではゲーム『MOTHER』や『ファイナルファンタジー』などの音楽を使用している。胸がときめきくではないか。そういう好きなものがたくさんある人って、生きづらい人だと思うのですよね。でも、なんとか生き抜く為に、好きなものを増やしていく。それは「世界」を、拡張したり、ひっくり返したりする為の装置だ。浜口浜村の漫才は、そういう装置をたくさん詰め込んだ爆薬みたいだった。漫才というフォーマットからどんどん逸脱していく自由さも、このクソ垂れな世界に拮抗しようとしているみたい。笑いながら「うわー、こんな風でいいんだ」と思えるのは素晴らしい体験だった。


新ネタ漫才6本。いつもネタを考えている浜村のネタが3本、いつも考えていない浜口のネタが1本、ゲストのルシファー吉岡が考えたネタが1本、そして即興漫才が1本。1番笑ったのはラストのネタで、浜村が「面白い漫才の型を思いついたから、とりあえず首を9つにしてくれないか?」と浜口にお願いする所から始まり、9つ首漫才の詳細を描写しながら、何故か「替え歌漫才」に移行して終わる、という狂った構成の漫才。思わず、手を叩いて笑ってしまった。即興漫才と浜口が作ったネタのイメージの飛び具合にも唸らされた。何でも立川談志を敬愛しているそうなのだけども、まさにイリュージョン漫才である。浜口作の漫才は、夏の終わりにかき氷が食べたくなって裸のまま公園で寝ていたら、アリに巣に運ばれ、冷蔵庫には氷がなく、ビックリマークとクエスチョンマークしか入っていないので、かき氷機にかき氷機を入れてかき回した・・・とかいうのを永遠にやるクレイジーなネタだった。確かにこのコンビ、今の賞レースで名を馳せるのは難しそうだ。観る人によってはとんでもなくつまらなく思えるというのも頷ける。しかし、絶対に支持していきたい。