『新文芸坐×アニメスタイル セレクションVol.37 芝山努の仕事ドラえもん編』
オールナイト企画『新文芸坐×アニメスタイル セレクションVol.37 芝山努の仕事ドラえもん編』に駆け付けてきた。トークショーには芝山努と渡辺歩が登壇。芝山努とは「ドラえもん大長編」を1983年の『のび太の海底鬼岩城』から2004年の『のび太のワンニャン時空伝』までの監督を担当したレジェンドアニメーター。幼少期から貪るように観た「ドラえもん大長編」とイコールで結びつく人物だ。20年以上に渡り、年1本というペースを崩す事なく「ドラえもん大長編」を作り上げただけでなく、アニメ『ドラえもん』『ちびまる子ちゃん』『忍たま乱太郎』『まんが日本昔ばなし』などの監督、作画、演出をこなしていたというのだから驚きである。例えば1992年であれば『のび太の雲の王国』と『映画ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌』という傑作映画を2本作り上げているわけです。トークショーにおいて印象的だったのは、その多忙さ故に、渡辺歩から「芝山努がもし『ドラえもん』1本に絞っていたら、こんなもんじゃないだろという歯がゆさもあった。あの巨匠よりももっと凄いものを作っていたと思う」という言葉が漏れた事。そう、芝山努は72歳、あの巨匠(宮崎駿)と同い歳なのだ。現在は完全に引退状態の芝山努だが、「でも宮さんが『風立ちぬ』やるらしいしなー」ともこぼしており、次回作への希望はゼロではないのではないかしら。もし、その手腕を最期に振るう時が来るのであれば、それはぜひとも『ドラえもん』というフォーマットであって欲しい。ちなみに上の画像は、開場で公開されていた芝山努による「ドラえもん大長編」の絵コンテ。もはやコミックスと言っていい詳細な書き込みに驚く。台詞のタイミングまでにもほぼ指示が入っている。これは藤子F先生死後、「ドラ映画」のブランドを保持しようという責任感からのちょっとした狂気だったらしい。
トークショー後は『のび太の魔界大冒険』『のび太の結婚前夜』『のび太とふしぎ風使い』『のび太のワンニャン時空伝』の4本を上映。それに加えて『のび太のアニマル惑星』以降の全予告編と歴代キャラクターが大勢登場する『ドラえもんアニバーサリー25』なども流れる。そして、『のび太の魔界大冒険』の圧倒的な面白さ!暗闇のスクリーンであのフィルムを観る幸福感よ。『のび太とふしぎ風使い』はアニメーションとしての動きのクオリティは眼を見張るものがかるが、脚本がどうにもお粗末。そうなると、言葉を尽くしたくなるのは旧体制の最終作『のび太のワンニャン時空伝』だろう。
歴代の大長編へのオマージュ、そしてタイムマシーンによるパラドックスを題材に用いるなど、「これがドラ映画の締め括り!」というスタッフの心意気が大いに感じられる。物語の舞台となるワンニャン国には開業25周年を迎えるエンターテイメント施設ネコジャーランドが鎮座している。ここに25作目を迎えた「ドラえもん大長編」がメタファーとして託されていない、と考えるほうが難しい。更にこの作品にはディズニー、ジブリ(官能的なカーチェイス!)などのオマージュがふんだんに見受けられ、アニメ産業そのものを締め括ろうとしているのではないか、とすら思えてくる。しかし、ラストにおいてこれらは全て巨大隕石によって無に帰るのだ。果てには
生まれては消え 生まれては消え
そうしてまた新しい命が誕生するんだ
という台詞が飛び出す。新スタッフ体制に移るアニメ『ドラえもん』というフォーマットへの自己言及まで劇中で為されるわけである。そして、それらが全て、のび太とイチ、そしてのび太の祖母との絆であるけん玉の運動に託されている。「もしもしカメよ、カメさんよ」という剣玉の往復運動に乗っかるように、反復の演出を連ねていきながら、ラストまでダイナミックに駆け抜ける。F先生の死後のオリジナル作品としては現在までにおいても断トツの最高傑作。この作品で芝山ドラ、大山ドラが締め括られことに感謝したい。