青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

5lack×olive oil『5 0』

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「チルウェイブ」「グローファイ」と呼ばれる音楽がここ数年で大いにはやった。サティやラヴェルを想起させるアンビエントな鍵盤の響き、ループするシンセ、千鳥足のように漂うビート。メロウ、アンビエンス、レイドバック・・・そんな形容詞がふさわしい音色でもって、あらゆる境界を曖昧にしてしまう、それらは「逃避の音楽」なんて呼ばれているらしい。

たまにはいいだろ  今の自分を忘れて旅に出るのも

なんていうこのアルバムのリリックのムードもチルウェイブの流れにあるのでは。メロウな鍵盤とシンセの響き(とりわけ中盤の「鼓動」以降のその気持ちさときたら)もバッチリ。しかし、このアルバムには逃避の果て再び現実に着地するような感覚がある。印象的なのが通底するループ、循環のモチーフ。それは序盤の「愛しの福岡」で

上京したヤツもきっと戻るこんな良い街

とさりげなく提示されているのだけど、まずもってジャケットの「重なる輪」のイラストに顕著だろう。さらに、そのイメージが”廻る円盤”、つまりは”音楽”に託されているのが泣ける。アルバムタイトルは5lackとolive oilの頭文字を繋げて「50」で読み方は「Go」だ。その掛け声を合図に、5lackはolive oilの揺れるビートの上をスムースなライミングでもってユルリと、あらゆるものを輪として繋いでいく。まず、距離を超えて東京と福岡の街を繋ぐ。そして、紡がれる都市の生活。そのメロウサウンドは都市型の煌びやか夜のサウンドトラックとしてもバッチリ機能するだろう。そのスケッチの支点には、地方都市を経て見つめ直したホームタウン東京への眼差し(「離れればクソでも光るらしい」)、ひいては震災を経た現実への眼差しがあるように思う。「ニュースはクソみたい」と苛立ちアニメや映画に没頭する様も描写されている。しかし、現実に失望し、完全に逃避したかのようなムードを見せる一方で、

捨てな不安 知るかファック 逃れられない渦にダイブ
みんなはSAY NO 俺だけSAY YES

という力強さも見せる。これはまさにかつてS.L.A.C.K.の掲げた「テキトー」と、震災後に発表された『この島の上で』のシリアスさが、一繋ぎになっているようなムードだ。そう、やはり全てはループしている。この繋がっている感覚。震災後のもてはやされた「絆」という言葉を、クサするのが感度の高い人達のトレンドだったようなのだけど(まじでそんなネガティブ興味はねぇ)、5lackは彼なりのやり方であえて繋がりを歌う。そこには心地よい肯定のヴァイブスが漂っている。そういえば、かつて佐藤伸治

だれかとだれかがどこかで2人出会ったら
小さな小さな祝福の灯がともって そして小さな時間の輪がまわり
小さな想いがかけまわって ひとりでそうかとうなずくんだ


FISHMANS「MAGIC LOVE」

なんて態度ともシンクロする。やはり彼はS.L.A.C.K.時代から一貫してFISHMANSの心を抱いたボヘミアンラッパーだ。そんな彼のナイトクルージングは、ベッドで眠りについたとしても続く。

夜の旅はここで終わりか と思いきや 始まり
夢が語りだす 頼む 今は 音を止めるな


布団の中続く道 戻ってくると誓い 出かけるパジャマ姿で
I'm going 何処に?いい夢見な おやすみ

俺は人生を変える夢を見た ふざけてる現実に手をふり いかしたデザインの船で目指すのさ

夢から覚めればまた生活が始まる。それはもしかたらひどく退屈でクソったれなものかもしれない。でも、大丈夫。

すべてがひでぇことになったとしても 夜は来る 全てを包みに