青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

北白川たまこ(洲崎綾)『ドラマチックマーケットライド』

素晴らしいシングルです。表題曲「ドラマチックマーケットライド」の多幸感、疾走感、それでいて下世話な所を一切感じさせないこの品のよさは、久しぶりにお茶の間に流れていて欲しい普遍的なアニメソングの登場ではないだろうか。

複雑な展開をポップに響かせる片岡知子の才能に感服。管弦のカラフルな響きや「パパパー」というフリッパーズライクなコーラスから始まる渋谷系サウンドを構築する宮川弾の仕事も効いています。このソフトロック然とした楽曲をアニメソングの枠にキープしている洲崎綾のボーカルの、微妙に楽譜からズレているような感覚も癖になる。なんとドラムはNONA REEVESの小松シゲル!カップリングの「ともろう」は岡村みどりが作曲、編曲を担当して、作詞は図書館、グレンスミスなどの宮崎貴士ワークスを担う足立守正という布陣。ストレンジさをキープしながら童謡のようなポップなメロディー、近年のアニメソングとしては異例の柔らかい音像のアレンジ。歌詞は一体何話までの脚本を読んで書かれたものなのか気になるが、絶妙に『たまこまーけっと』の世界観に倣った「街の灯り」を「明日」に託す((灯る」→「トゥモロー」)という素晴らしい仕事っぷり。圧巻はまるで街の人々の暮らしの声が響きだしたかのようなコーラス部分で、これぞ「シティポップ」ならぬ「商店街ポップ」でございます。


このシングルが出るまでマニュアル・オブ・エラーズ・アーティスツという会社が存在する事を知らなかった。テレビ、ゲーム、映画、CM音楽やグラフィックデザインまで手掛けるカンパニーだそうなのだけど、代表は『たまこまーけっと』のエンディングテーマ「ねごと」作曲の山口優。前述通り『たまこまーけっと』のOP、EDに大きく関わる宮川禅(元ラブ・タンバリンズ安藤裕子のキャリアにおいても珠玉のナンバー「さみしがり屋の言葉達」「ドラマチックレコード」の作曲者としてもお馴染み)、片岡知子、岡村みどりもこのカンパニーの所属なのだそうだ。更にはヒゲの未亡人での活動や黒沢清映画の音楽で著名なゲイリー芦屋(「ともろう」のトラックのプログラミングも担当)なども所属。凄いメンバーである。こんな集団が京都アニメーションという、いつでもマスの中心を狙える所と仕事をしている、というのに一抹の希望を抱いてしまいます。