青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

2012 BEST ALBUMS 30

1.うつくしきひかり『うつくしきひかり』

私たちの生活に針を落としたらどんな音が鳴るのだろう。鳥や虫の鳴き声、風に光に、それに暗闇、後、もちろん人、という事はその記憶や感情も、とにかく生活を彩る全てのものを吸い込んで音にしたのがこのアルバム。うつくしきひかりの音楽が流れると、慣れ親しんだ空間や時間、そういったものの違う側面が浮かび上がってくるようでハッとしてしまう。後ですね、ピアノとスティールパンの音の絡み合い、その共存の仕方に人生における何か大きなヒントをもらえる気がするのだ。とても豊かな音楽。かつてサティの提唱した「生活の中に溶け込む音楽」が、強い歌と言葉を持ったポップスと共存する、2012年最新型のアンビエントミュージック。『うつくしきひかり』、それは愛と祈りのオールタイムベストアルバムでございます。




2.cero『MY LOST CITY』

バンドのフィジカル、楽曲の成熟度、ポップさ、サウンドスケープ、そして何より表現者としての覚悟が数段増し、大きく広い場所に放たれた2ndアルバム。音楽に限らず今後の日本のカルチャーの指針はceroが執っていくのだ、と個人的には思っている。クリエイティブの根源、そして快適な毎日を過ごす秘訣とも言える想像力。その想像力に対しての信頼と責任を表明したアルバム。はっぴいえんどの『風街ろまん』から約40年、現代にはceroの『MY LOST CITY』が鳴っている。




3.sufjan stevens『silver&gold』

天才によるクリスマスアルバム5枚BOXセット。パライノア、いやもう呪いといっていいほどまでのクリスマスへのその執着は祝福と呪いが一繋ぎである事の証明だ。呪いを振り払うかのように躁状態で幸福感溢れるスタンダードナンバー、オリジナルクリスマスソングを奏でる。自身のキャリアを統括するかのようなサウンドコーラジュも圧巻。一瞬の刹那を永遠にするポップミュージックの極みがここに詰まっています。永遠クリスマス旅行!



4.ザ・なつやすみバンド『TNB!』

待望の1stアルバム。未聴の方はぜひこのアルバムに触れて、日本の歌モノ音楽にまだこんな可能性が残っていたのか、と驚いて欲しい。ポップミュージックの強さを改めて思う。様々な思い出と共にこのアルバムが記憶として刻まれている。ザ・なつやすみバンドの音楽は日々生まれてくる距離、それらを縮めて円として繋いてでしまうのだ。居心地の悪さを受け入れ、世界を祝福するのだ!あらゆるジャンルの壁を取り払ってヒットチャートに登りつめる姿も容易に想像できる魔法のメロディーとビートでもって!



5.Flying Lotus『until the quiet comes』

宇宙旅行から帰還したビートメイカーが夜な夜な見る甘い夢。甘き死よ来たれ。エレクトロニクスと楽器の調和と同調するように、夜に訪れる境界の曖昧さが、音としてパッケージされている。誰にも邪魔される事のないインナートリップを私達は持ち運ぶ事ができるのだ、というこの喜び。バッハとかサティが今を生きていたらきっとこんな音を奏でたに違いない、という妄想が決して大袈裟に聞こえない現代を代表する天才の静かなる一撃。



6.Antonio Loureiro『So』

現在のポップミュージック界において、今なお深化を続けているというブラジル、ミナス音楽を担う若手シンガーソングライター兼マルチプレイヤーの2ndアルバム。ジャズ、フュージョン、クラシック、ソウル、テクノ、プログレッシブロックボサノヴァ、アフリカン、サンバ、タンゴetcこのアホくさいジャンルの羅列が渾然一体となってポップスとして響いてくるのがAntonio Loureiroの音楽なのだ。多様な文化が混じり合ったブラジルという国から生まれたハイブリットシティポップ。



7.ミツメ『eye』

新世代を代表するホープの2ndは、1stで生まれたポストスピッツへの期待をスルリとかわすサイケでニューウェイブな音像に驚くと共に改めてバンドの魅力を再確認できる1枚となりました。その演奏と音色のセンス、そして何よりボーカリスト川辺素の天才的な節回しに、新しい日本語ロックの可能性を見出す。カセットとアナログでリリースされたシングル「fly me to the mars!!!」「煙突」の2曲は今年のベストチューン!



8.パブリック娘。『学生編』

3人組ヒップホップユニットによる、EP3枚にボーナストラックも含めた学生時代総括編。このモラトリアムが有限である事はわかっているのだけど、ついつい無駄に過ごしてしまう。そんな中流階級大学生が、かつてスチャダラパーがラップした「パッと見 生産的なもの以外は無用だとでも言うのか あんまりだ そりゃちと強引だ」なんてラインを引き継ぐように、メロウでダウナーな日常を詳細にリアルにスケッチする。ちょっと泣くぜ、これは。



9.昆虫キッズ『こおったゆめをとかすように』

詩人高橋翔が「今」を見つめて書き綴った言葉に、リズムとアレンジの幅が多いに広がったサウンド。ちょっと完璧な3rdアルバム。昆虫キッズのメロディーと演奏は揺れている。しかし、ユラユラと揺らぎながらもその音楽は確実に本当の事を掴まえている。今までの彼らはファンタジーの裏側をひっぱがし虚無をさらけ出す凶暴さがあったわけだが、今作では現代において凍ってしまったそれを、温めて溶かしてあげる、そんな優しさに満ちている。



10.片想い『踊る理由』

東京のインディーミュージック界にシーンというのがあるとすれば、それはMC.sirafuが歩いて描いた円(縁)の事だと思っている。そのシーンを代表するナンバーがこの「踊る理由」であり、それがアナログオンリーながらシングルとしてリリースされた事を祝いたい。「向かう移動集うきっとそれは光る希望なのかもしれないよ」というラインがをこのグッドミュージックシーンの魔法の秘密を表わしているのではないでしょうか。



11.オノマトペ大臣『街の踊り』

僕らが街に住む理由!オノマトペ大臣のラップは現代のシティポップの変化形の1つだ。その天才的な言葉のチョイス、スケッチ力でもって、あらゆる対岸を行ったり来たりする。それは逃避でも何でもなく、軽やかなステップのようだ。後、誤解していたのは、フロウに関しては最初下手ウマいう認識だったのだけど、実はスキル合わせ持つかわい子ちゃん!参りました。



12.柴田聡子『しばたさとこ島』

天才詩人の記念すべき1st。彼女独特の歌のリズムを凄腕ミュージシャンがバッグで支えております。10曲25分で駆け抜ける。しかし、速いのは言葉で、一瞬で世界を掴まえて書きかける。その溢れんばかりのイメージが放出されていく様を、荒ぶる感受性を持て余した全ての若者に捧げたい。



13.QN『New Country』

QNの緩急自在に揺れるトラックとフロウ、そこにのっかる生楽器の音色に大いに耳が喜んだ。怠惰でメロウな日常を綴りながら、宇宙へと飛び出す飛躍力がいい。コズミックファンク。このアルバムを聞きながら、いつでも新国家を日常に設立するのだ。



14.ayU tokiO『New Teleportation』

音楽前夜社が誇る一大ポップユニットMAHOΩのメインソングライターによる1stソロ音源。無茶苦茶聞いている。えー今更?というアノラックな音にチャイルディッシュな万能感が宿っており、何故だか無性に胸を掻き毟る。時代と場所を超える、まさに超時空転移装置。ayU tokiOは1人で1stをリリースした頃のダブルOの才能を持ち合わせております。



15.シャムキャッツ『たからじま』

絶望は消えないながらも「なんだかやれそう なんとなくいけそう」とのたうち回るその無根拠な自信が全て。最強の男の子たちだ。なんかシャムキャッツを聞いていると小学生時代を無性に思い出すのですが、何故でしょうか。しかし、サウンドは海外のインディーミュージックと絶妙にリンクしながら、シャムキャッツなりに解体してあって、イノセンスとインテリジェンスのバランスが最高なのです。



16.私立恵比寿中学仮契約のシンデレラ(初回ビー盤)』

記念すべきメジャー1stシングル表題曲は、全力茶番、均等なマイクリレー、メタファー、リズムチェンジなどインディーズ時代に培ってきたエビ中印を綺麗に磨き挙げ、そして何よりそこに負けないパワフルなメロディーをのっける事に成功した傑作ポップチューンだ。いびつで凸凹な美しさ、ここに極まり。ビー盤のカップリングのフック生産工場なエレポップ「歌え!踊れ!エビーダダ!」も必聴。楽曲大賞は2ndシングルのカップリング「ほぼブラジル」に譲りたい。



17.Tomato’n pine『POPSONG4U』

楽曲派アイドルという言葉の立役者達の最初で最後のアルバム。涙。四季豊かなこの国、トマパイのいるこの国に生まれた事を感謝したくなります。渋谷系な味つけもグー。珠玉のシングル(「ジングルガール上位時代」がリリースされた時の興奮が忘れられない○)に加えて新曲群も高クオリティーで、このまま散開(解散)では、10年後には伝説的存在になってしまうのではないでしょうか。



18.tofubeats feat.オノマトペ大臣『水星』

片想い「踊る理由」と並ぶ2012年もう1つのアンセム。ブックオフで売られていたのであろうお笑い芸人の企画物CDが、こんな形で息を吹き返す、DJ文化が浸透したこの新世代のリサイクル、リプロデュースの感覚に希望を見る。いつでも、どんな場所でも音楽は作れるし、鳴らせるし、踊れるのだー。



19. 口口口『マンパワー

街が歌い出す、というのはまさにTwitterが実践していたのではないかと思っていて、あのタイムラインに流れていくつぶやきはメロディーで、小刻みな更新がリズム。人生とは絶え間ないビートの上に乗っかったメロディーのこと。そんな実感を元に、人々のつぶやきと、キャリア屈指の名曲「00:00:00」とをマッシュアップして作り上げた「いつかどこかで」がとにかく素晴らしい。実験POP集団と化した口口口支持!



20.HAPPLE『おかえり』

3人編成となったHAPPLEの起死回生の3曲入りシングル。和製トッド・ラングレンの名は伊達じゃない、奇妙にひねくれながらも抵抗しがたいほどにポップだ。活動休止、改名、脱退、全てを受け入れ肯定を鳴らした「おかえり」が白眉。「いつも約束しないで階段を上ったり下りたり」は揺らぐ自身の活動歴、コードとメロディーか。



とりあえず、20枚こんな感じでーす。今年は面倒くさいのでシングルも混ぜこぜにしたので、正直順位なんてあんま関係ないです。5枚組のアルバムと3曲しか入っていない音源を同じランキングに収めるだなんて!とにかく、下の10枚も含めて30枚は全部「心のベスト10」くらいの勢いで愛しているのですよ!


21.Frank Ocean『channel ORANGE』


22.Marthas & Arthurs『The Hit World Of...』


23.MALA『Mala in Cuba』


24.NRQ『のーまんずらんど』


25.Madalyn Merkey『Scent』


26.私立恵比寿中学エビ中の絶盤ベスト 〜おわらない青春〜』


27.Liz Christine『Sweet mellow cat』


28.平賀さち枝『23歳』


29.The Caretaker『patience (after sebald)』


30.さくら学院さくら学院2011年度 〜FRIENDS』



今年は本当にいいアルバムがたくさん、個人的に稀に見る豊作の年でありました。上位4枚のうち3枚がMC.sirafu関連であります。そういう年でした。でも、また、ライブ盤なのであえて外したのですが、小沢健二の『我ら、時』とスカートの『月光密造の夜』も素晴らしい熱量でよく聞いた。しかし、やっぱり今年はうつくしきひかりの年だったのだ。来年はどんな年になるのでしょう。とりあえず、音楽前夜社が凄い事になるんだろうな、というだけでワクワクが止まりません。