青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

岩淵弘樹『サンタクロースをつかまえて』


岩淵監督というと私の中ではライブハウスでよく見かけるバンドを撮影しているお兄さん、もしくは中野の路上でウンコをしちゃう人、なわけなのだけど、うっかり感動してしまった。仙台の冬の風物詩と言われている「光のページェント」の点灯でこの映画は始まる。クリスマスケーキを嬉々として持ち帰る若い父親、クリスマスは朗らかに歌い踊り祝うキリスト教徒、帰省した息子に作ってあげるラーメンとカツ丼の湯気、プレゼントに喜ぶ子供の達の笑顔、それを見つめる親の視線etc・・・疑いようもなくこれは光についての映画である。つまりそれは同時に影の映画でもあって、それは勿論2011年3月に東北を襲った震災だ。この作品には多くの変わってしまったもの(影)、そして変わらないもの(光)がカメラに収められている。そして、変わってしまいそうなものを留めようと、夜に暗躍する人々の姿が映っている。この映画では「サンタクロース」、そう呼ばれている。子供が寝静まるとそっと枕元にプレゼントを置く、被災した街を光で埋め尽くす、それらの行為は"虚構"と言ってしまえばそれまでだが、甘い嘘で、甘い魔法だ。ここには岩淵監督の、映画とか音楽とか小説といったあらゆる創作物に対する認識もしくは"願い"のようなものが垣間見ることができる気がする。


個人的にとても好きだった所。yumboの澁谷さんの幼少期唯一のクリスマスの思い出を語る顔。この日の「鬼火」は本当に素晴らしい。

澁谷さん家の白い猫。岩淵監督の撮りたい画をことごとく裏切って意外性のある美しさを撒き散らす彼の母親。イヴの夜にプレゼントを枕元に置きがてら子どもの寝顔をカメラに収める父。全てが愛おしさに満ちている。ラスト、おそらくほとんどがハンディカメラで撮影されていたであろう画面が、上昇していく。ラストだけ上昇して俯瞰になるなんて「小津安二郎の『麦秋』じゃないか!」と震えていたら、カメラは不安定に揺れる。なんとこれは風船をカメラにつけ、凧糸で操作して撮られたものなのだそうだ。しかし、そのユラユラと迷い揺れ、焦点は定まらないながらも、確かに街の光を捉える、その画は岩淵監督の視線、そしてこの作品そのもののようで、私は感動してしまったのだ。そのラストシーンで流れるyumboの「嘘の町」という曲がいい。音楽が画面に浸透していく。

静まらない心で濡れた道を歩く
滝壺に落ちてゆく 優しさを眺めていればいい
終わりかかった町に 甘い魔法をかけて
通り過ぎる思い出に 嘘の町を作る