青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

ロバート・ローレンツ『人生の特等席』


グラン・トリノ』をもってして役者引退宣言をしていたクリント・イーストウッドがまさの主演。脇を固めるのはエイミー・アダムスジャスティン・ティンバーレイク、監督のロバート・ローレンツイーストウッドの弟子。観る前にすでに良さそうなのですが、期待を上回る良作だった。原題は『Trouble with the Curve』という事で、カーブボールという変化球に人生の侘び寂びを託している。その脚本の感覚がいい。ようは「俺は変われるんだ!」という事だ。「小便カーブ」なんて言葉もあるが、映画は「チョボチョボ」というキレの悪いイーストウッドの小便の音で始まる。この作品は音の映画なのである。その音とはイーストウッドのしゃがれた声だ、と言ってもいいのだけど、とにかく色々なモチーフが音に託されているのだ。イーストウッドのトラウマは生々しい馬の走る音に、エイミーの仕事のしがらみは携帯の着信音に、イーストウッドとエイミーの絆は「You Are My Sunshine」のメロディーに、エイミーとティンバーレイクの若さはビリヤードの「ガコン」もしくはご自慢の車の「ブルルン」というエンジン音に、そして2人のロマンスは床を足で叩くクロッキングというダンスの音、湖の飛び込む「ドボン」という音に託されている。当然、物語を動かしていくのも、バッティングの音、ピッチングの音である。目で見ること以上に、「耳で聞くこと」の重要性を説く作品だ。カメラはイーストウッド作品でお馴染みのトム・スターン、歩くシークエンスはどれも魅力的だ。特にお気に入りはモーテルの部屋に帰る時のイーストウッドとエイミーの歩み。おそらく批判の対象になるのであろうハリウッド的なご都合主義な展開も個人的には笑えてよかった。