青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

樋口真嗣×庵野秀明『巨神兵東京に現る』

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エヴァンゲリオン新劇場版:Q』との同時上映であった今作。元々は今年、東京現代美術館で開催されていた「館長 庵野秀明 特撮博物館 -ミニチュアで見る昭和平成の技-」において公開されていた作品だ。噂には聞いていたものの、どんな作品なのかも一切の前知識なく観たものだから、大いに衝撃を受けてしまいました。上空から突如して東京に降り立つ巨大生命体巨神兵。日常に突如して現れた亀裂。しかし、それでいても人々は「自分だけは大丈夫だろう、生き延びるのだろう」とどこか奥底では思っていて、慌てて逃げ出すということをしない。それどころか呑気に携帯を掲げて写真を撮っている。とっくに予兆として現れている"終わり"にずっと気づかないふりをし続ける。巨神兵、それは現代の日本に生きる我々の抱える不安が具現化したものだ。巨神兵の口から発射される破壊光線が我々の「気づかないふり」もろとも東京の街を火の海へと変えてしまう。見知った街が理不尽に無慈悲に破壊されていく。特撮のアナログな質感で未来が壊されていく。映像作品に、目を背けたくなるような恐怖、というのをここまではっきりと感じたのは初めてかもしれない。しかし、徹底した破壊のその先に何故か美しさも同時に感じてしまう。舞城王太郎による言葉の力が、この全てが焼き払われた無残な映像を、それでもまだなお生きようとする生命への希望の物語に書き換えてしまうからだ。しかも、この作品が描いているのは「火の七日間」、つまりはあの『風の谷のナウシカ』の前日談である、というおまけ付き。更に言えば、これは『エヴァンゲリオン』における「サードインパクト」に置き換えてしまう事も可能なのだ。庵野秀明×宮崎駿×舞城王太郎×樋口真嗣の描く、絶望と希望。