青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

ベン・アフレック『アルゴ』


ベン・アフレックは俳優出身からの監督という事で、クリント・イーストウッドと比べられる事も多いようなのだけど、『ザ・タウン』に続いてこの『アルゴ』の充実をして、決してそれが重過ぎる事はなさそうではないか。ベン・アフレックの役者としての出演作と言えば、パッと出てくるのは『アルマゲドン』や『パール・ハーバー』といったハリウッド大作。そういった大きなハッタリをかます作品に関わっていた事もこの『アルゴ』に活きている。この作品は「映画のつく嘘」についての映画だ。その”嘘”というのは”想像力”に置き換えてもかまわない。


反米感情が高まった中で勃発したイラン革命テヘランのアメリカ大使館も占領されてしまうも、何とか逃げ出した6人のアメリカ人。しかし、6人は見つかり次第、公開処刑されてしまうだろうし、そんな事が起きたら戦争である。そんな中ベン・アフレック扮するCIAの救出のスペシャリストが思いついたのが、イランをロケ地とした架空のSF映画を企画し、6人をその撮影スタッフと偽り、イランを脱出させるというもの。その結末やいかに!?というのが大筋なのだけど、その本当は撮らない架空の映画(『スター・ウォーズ』のパロディ!)を細部まで徹底して作り込む。そこが面白い。そして、「アメリカ合衆国政府は君のSF映画を承認する。」というとんでもない名台詞が飛び出し、思わ宇涙してしまう。映画のつく嘘が、あまりに不条理な現実の世界を転覆させてしまう。実に痛快でロマンティックな1本だ。『猿の惑星』のメイクで著名なジョン・チェンバースが実名役で登場する。つまり、この映画での”嘘”はフェイスに託される。イラン兵たちが架空の映画の絵コンテをうっとりと見つめる、その”顔”の表情は映画の力そのものだ。


「手に汗握る」という表現がズバリな緊張と興奮の連続。これはちょっと面白過ぎる。ポリティカルドキュメンタリータッチ、業界パロディ、脱出劇、映画愛、ここぞと詰め込んで2時間ダレる事なく魅せてしまう監督の手腕。ベン・アフレックから映画への最高の「アイラブユー」である。