青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

『山下達郎シアター・ライヴ PERFORMANCE1984-2012』


冒頭は1980年代、90年代のライブ映像が続く。ヤング達郎のスタイルの良さ。「SPARKLE」「LOVELAND, ISLAND」と言った名曲のオンパレード。完璧に制御されたバック陣の演奏、山下達郎によるギターカッティングのかっこよさ、ドゥー・ワップのリズム感、そして何より圧倒的な歌の上手さ。ヤングとは言っても30代ではあるし、ヒットも飛ばす売れっ子だったのだろうけど、きちんと反逆者、レジスタンスの香りを放っている。しかし、観ているうちに「30年近くも前の映像が序盤だと後半のライブは年齢的にパフォーマンスが見劣りしちゃわないだろうか」という懸念が生まれるわけですが、2008〜2012年のライブ映像を見るとそんなものは一瞬で吹き飛ばされる。もちろん音響が圧倒的によくなるというのもあるのですが、この人の歌声は59歳の現在にして更に凄みを増している。今作の白眉は「希望という名の光」だろう。あの全身全霊が込められたパフォーマンス、それはまるで楽曲の歌詞そのものの経験だった。

だからどうぞ泣かないで こんな古ぼけた言葉でも
魂で繰り返せば あなたのため 祈りを刻める
眠れない夜のために 子守歌があるように
傷付いた心には 愛という名の絆を

そして、間奏にアカペラで歌われる「蒼氓」のフレーズがミックスされる。やや恥ずかしい思い出話になるのだけど、中学生の頃、部活の合宿で離島に船で向かう事になり、真夜中に1人、デッキに出て山下達郎の中期ベストアルバム『TREASURES』

TREASURES

TREASURES

を録音したMDをウォークマンで聞いていた。最後に収録されていた「蒼氓」がかかり、突然、自分と世界とパシっと繋がったような、もちろんあくまで「ような」なのだけど、確かにそんな感覚を覚えたのだ。その後の人生でも数回だけ訪れたりするこの感覚の最初がなんと山下達郎であったのだ。

遠く翳る空から たそがれが舞い降りる
ちっぽけな街に生まれ 人混みの中を生きる
数知れぬ人々の 魂に届く様に
凍りついた夜には ささやかな愛の歌を
吹きすさんだ風に怯え くじけそうな心へと
泣かないで この道は 未来へと続いている

この歌には、名も知らぬ無数の人々の感情の連なりで世界が構成されている事、そして人にはどうしても埋められない穴があって、それは仕方のない事で、それ故に、彼ら僕らのためにポップミュージックは街に鳴り響かなければならないのだ、という山下達郎の決意表明が音で刻まれている。この曲のコーラスにサザンオールスターズとしてポップミュージック界で礎を築いた桑田夫妻が参加しているというのが泣けるではないか。まぁ、とにかく船の揺れと共に暗闇の中で聞いたこの曲に、私は「生き続けることの意味」の意味を”光”として認知したのだ。とにもかくにも、音響的にも圧倒的な素晴らしさを誇る音楽映画、絶対的にオススメなのである。