青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

細田守『おおかみこどもの雨と雪』


テーマは「子育て」と監督自身がはっきりと述べている。確かに母の愛を主軸に13年という時の流れを巧みに操作して2時間弱に収めた手腕も美しい。しかし、私はこの作品を「選択すること」の残酷さを肯定する試みの映画として評価したい。作中での、人間として生きるか、狼として生きるか、という大きな選択は決して中途半端な形では結ばれない。家の左を行けば学校(人間)、右を行けば山(狼)と、画面の中でその選択を視覚化したのも巧い。そして、その選択の過程と結果をしっかりと美しさと哀しさと気高さでもって演出している。主人公である花の「話しかけるか、かけないか」「受け入れるか、入れないか」「産むか、産まないか」「大学を辞めるか、辞めないか」といった数々の選択の全てが報われ、大きな2つの円を描く。


細部の演出の豊かさもいい。お馴染の食事シーンに加えて、今作の汚れた廃屋を修繕するというシークエンスの演出などは、さすが『ハウルの動く城』の監督として起用されていただけはあるな、といったジブリのお株を奪う秀逸さ。「フード理論」にはもう飽き飽きだ、というのもわかるが、あのキジうどんの湯気や、焼鳥をコップの中のタレにつけるという所作に、確かにあの夫婦の愛が託されてる。人前に出る際はフードをかぶらねばならない抑圧された家族がアニメーションの快楽と共に雪原の中で解放されるシーンは誰もが認めるハイライトだろう。そして、「二面性」についての演出も渋い。おおかみこどもの名前は雨と雪。彼らは人間であり狼である。雨が雪に変わりように雪は雨に変わる。序盤まで雨のイメージカラーとして用いられていた青は雪のワンピースへ転化し、雪のイメージカラーだった赤は雨の瞳へ宿る。

効果的に配置された鏡の演出も「二面性」というテーマの相乗効果をもたらしている。終盤の校舎のシークエンスには相米慎二台風クラブ』の影響も感じる。