青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

柴田聡子『しばたさとこ島』

しばたさとこ島

しばたさとこ島

冒頭の「ブルーノのワルツ」で宣言されるように、素晴らしき詩人の登場である。10曲を25分で駆け抜ける高速で濃密な柴田聡子ワールド。言葉の鮮烈なイメージの連射は、まるで繋がりのない言葉と言葉が組み合わさって不思議な風景を見せる。代表曲の「カープファンの子」を貴方は聞いたか。

カープファンである必然性は全くないのだが、どうしたって可愛いあの子は赤ヘル軍団広島カープのファンでなくてはならないような気がしてくる。「ばら」という曲では「あいつがなぜ山に行ったかわかるか?」→「消防自動車がすきで 水を放つところが見たかったから」とくる。全くわけがわからないのに、「そうか、そうか」と不思議と納得してしまうこの言葉の強度はなんだ。「春の小川」など、こうだ。

夜行列車は渋谷発 なんだか指が痛い
馬に乗りたい とびきり早い馬に

この跳躍力。列車が馬に、そして小川に変わる。「いのちがtoo shirt!」なんてこう。

ばくちくだらけの猫をおっかけて ふくをびりびりにやぶこう
ありあまる野蛮でトラックを乗っ取って ここから黄色い粉を撒こう

この暴力的なまでの力強さ。そして、「さみしい歌が歌いたかったの」と始まる「まぼろし」では

夢の中でまた夢をみて 夜更かしのあの子の手を握って
どこまでも行けるところまで 
わたしはいそいで愛から逃げよう

深い所に潜っていくような質感。物語性に頼らず、イメージの連なりだけで世界を捕まえる、書き換える。これが詩人だ。イリュージョンというやつだ。この人はいつか穂村弘と対談したりするんじゃないかなぁ、と思っている。

言い表せない景色がある
割と内緒の景色がある

名曲「景色がある」。柴田聡子には彼女にしか見えていない世界があって、なんとかそれを言葉で、歌で、表現しようともがいているように見える。そして、彼女の歌には、彼女だけの天才的なリズムがある。そのナチュラルボーンな佇まいも歌わざるを得ない人、歌わないとどうにも帳尻が合わない人、という感じがしていい。こういう風に声を放ちたいからこう歌う、といった感じのギミックを感じさせないプリミティブな歌声は魅力的。今作ではその天才を支えるため、三沢洋紀、DJぷりぷり、植野隆司(テニスコーツ)、山本達久(NATSUMEN)、須藤俊明(uminecosounds)、じゅんじゅん(MAHOΩ)といった才能が集結している。それぞれが主張しながらも、彼女の強烈な個性、リズムを損なわないよう美しくメイクを施している。今作が気にいった方はCD-R『2011、夏のデモ』『2011、冬のデモ』もオススメ。収録曲は同じですが、基本弾き語り作品でより濃密な柴田聡子ワールドを堪能できます。