青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

平賀さち枝『23歳』

23歳

23歳

ベースに田中馨(ex.SAKEROCKショピン)、ドラムに内田武瑠(ex.BURGER NUDSショピン)、ピアノに野村卓史(グッドラックヘイワ)という、凄腕かつ柔らかい音色のバンドサウンドを得た平賀さち枝は、そのちょっとややこしそうな自意識と絶妙なルックスでもって、女性版星野源のポジションを獲得したと言っていいのではないか。フォークリバイバルを起点としたポップスとしての現代の歌モノの着地点は星野源と彼女に託された。


前作『さっちゃん』は言葉とメロディーのつかまえる事のできない浮遊感が、彼女の持つ「少女性」との共鳴する1枚だった。今作はタイトルが年齢である事からも伺えるが、その自身の少女性(=過去)と折り合いを付ける音源のように思える。『さっちゃん』がフワフワと上昇していくようなイメージだったするならば、今作にはバンドサウンドの緩急に乗って、過去、現在、未来を縦横無尽に浮いたり沈んだりするマジカルさが加わっている。「いつまでも思い出すわ ハロー&グッドバイ」てな感じで、シャツの色、石鹸の匂い、コーラの味、風の感触から、五感をめいっぱい駆使して過去の記憶を拾い集める。しかし、冒頭の「今は帰らない」では

新しいことに胸ははずむけど うまくいかない 最初の扉
振り向かないわ もう 決めたの

と、過去との決別を表明していたりする23歳のアンビバレンツ。とは言え、彼女は過去との折り合いの付け方を獲得しているように思う。彼女はかつての輝かしい今を光と捉えている。

輝きは 早いスピードで消えていく のがしたくはないよ

いつかは離ればなれ
いずれいつかは消える 眩しい光に 一人でかけていく

叶わぬ夢が いまだ心の中に 
それでも こんなに光が 輝いて 輝いて

このミニアルバムで描かれる光の描写には、それらが消えゆくものだという諦観とそれでもなおそれを留めようとする強い意志に満ちている。最終曲「パレード」ではこう歌われる。

まぶたを閉じれば パレードが続く
くらくらするほど 光かがやくよ
いつでも目を閉じれば

過ぎ去っていってしまったものも、留めておけばいつでもその光に触れる事ができる。だから彼女は歌う事で自在に過去に遡り、思い出を拾い集めてはそれを糧に前に進む。それが永遠に少女でいれる秘密なのである。