青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

高橋栄樹『DOCUMENTARY of AKB48 Show must go on少女たちは傷つきながら、夢を見る』


岩井俊二が制作総指揮を務めた前作『DOCUMENTARY of AKB48 to be continued 10年後、少女たちは今の自分に何を思うのだろう?』は少女趣味が炸裂した美しい映像とインタビューを中心とした作りであったが、今作は本格的なドキュメンタリータッチに変貌を遂げている。その内容は、あまりに沈痛でエモーショナル。前作では

この人気は長続きしないのはわかっているし、今年(2010年)にも終わるかもしれない

との覚悟を決めていた彼女達だが、2011年においてもその勢いは終わるどころか加速していき、シングルCD年間売上トップ5を独占、レコード大賞も獲得。メンバー各人の映画、ドラマ、CM出演も多数見かけ、もう誰にも止められない前人未到のスーパーグループへ成長を遂げた。今作ではその栄光の裏側を剥き出しにする。殺人的なスケジュール、バタバタとステージ裏で人が倒れて行く大規模で過酷なライブ、チームワークとわだかまり、そして国民に大々的に格付けされる総選挙、下位への葛藤、上位の重圧。まさにこれぞ身も心も、と言った感じに痛めつけられる少女たち。その象徴的存在である前田敦子。この映画での彼女の”サッドモンスター”然とした佇まいには背筋が凍る。前田敦子は儚げで所在ない。だが、今作のカメラが映し出す彼女は、溢れ出る悲しみによって軋みをあげながら確かにこの世界に存在を刻んでいるように見えた。10万票を越える自身への投票を「これは愛です」と叫ぶ大島優子に対し、「孤独でした」と独白する前田敦子。そして、1位になったにも関わらず泣きながら

私のことを嫌いな方もいると思います
私のことは嫌いでも、AKBを嫌いにはならないでください

と訴える。画面一杯に悲しみと孤独が広がる。投票1位でのセンター復帰後の「AKB48 コンサート よっしゃぁ〜行くぞぉ〜!in西武ドーム」では極度の緊張とプレッシャーから過呼吸を何度も引き起こし、更には日射病でも倒れ込んでしまう。それでもステージに立つ彼女は、イントロの鳴る直前まで呼吸も整わず、フラフラ。しかし、いざ曲が流れるやいなや、必死の笑顔を観客に見せる。一体何のために彼女達はここまでしなければならないのか?という疑問が生まれてくる。映画はその問いに、彼女達を被災地に置く事で答えてくる。事実、AKB48は震災後、何度も被災地に足を運びミニライブや握手会を行っている。変わり果てた街の姿をバスの中から青ざめて見つめるメンバーを、被災地の方々は熱狂でもって出迎える。メンバーは覚醒したように口々に「自分達のやってきた事の意味がわかった」「歌の力です」などという言葉を力強くつぶやく。彼女達にそこまで背負わすのか、と憤りを覚えないでもない。しかし、もはやかつてどのアイドルも到達した事のない地点を歩んでいる彼女達。そこの神話がどのように続いていくのかを見届けたいと思う。


その他にも嘘みたいなショットがいくつも収まっている。戦場さながらのバックステージにて、1人階段に座りこみ、ソロ曲を歌う前田敦子が映るモニターを見上げて「かわいっ」と人知れず呟き微笑む高橋みなみ。これは何かの実写化なのか。高橋みなみのそのリーダーとしての立ち振る舞いは海賊の船長のようで、もはや船をどう動すか?しか興味がないように見える。