青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

狐の会というバンドについて


ふと、狐の会というバンドのことを思い出した。2005年から2006年にかけて、空気公団HARCOでお馴染のCoaRecordから3枚のシングルをリリース。プロデュースは伊藤ゴローだ。しかし、アルバムを完成させる事のないまま煙のように解散してしまった。当時でいうところの「喫茶ロック」に括られるのだろうか。しかし、彼らのサウンドは独特であった。ニヒリズムやパンク精神でややこしく絡まってしまった、あまりに出来の悪い僕らの青春が、ソフトロックの意匠を纏った出来の良い音にのっかっている。それは、もうそのまんまBell and Sebastianなのですが、歌詞は日本語で綴られている。あまりに美しい詩情を備えて。代表曲「秋の夢」の歌い出しを少し印象しよう。

七つ目の角の坂道を
自転車で降りて君は行く
使い古したラブレターと
使い古された両親への言葉を
フィッシュマンズのワッペンのついたリュックに詰めて


夏はまだ平和だったけれど
秋はまた嫌な夢をみる
冴えない天気と
落ち着かない眠りの中で君の履歴書が
時間を無駄に過ごした勲章のスタンプで埋まる夢を

ネオアコの奏でる青春の完璧な翻訳だ。当時我々はこれを「発明だ!」ともっと騒いでよかったのではないか。滑らかに言葉がメロディーとなりサウンドにのっかっている。小さな音で鳴らされる抵抗の音楽。それはとても贅沢なもののように思えます。

短編小説付きのシングル3枚はその全てが名盤だ。管弦楽器とピアノが絡み合う和製ネオアコの最高峰。アルバムの登場を今か今かと待ち望んでいたのですが、すっかり音沙汰がありませんでした。The Carpentersのトリビュートアルバムに参加したりなどしていたようですが、気付けば公式サイトも消滅。ネットで検索してみると、もう音楽活動は続けていないようです。中心人物であった”狐さん”を見つけ出して、「ひっそりとでいいから、また音楽を続けてくれやしないか」とお願いしたい。今のこの国の音楽シーンならば、小さな音でも、"確かな抵抗"というのを続ける事ができるんじゃいかしら、と思うのです。