青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

ジョン・ファヴロー『カウボーイ&エイリアン』


脚本の細部の雑さが気にならないほど気合の入った画作り。冒頭の西部劇としての画のクオリティはとりわけ高い。宇宙人来なくていいぞ、とすら思ったのですが、西部劇にSF劇が融和する宇宙人襲来のシークエンスもハッとするほどの鮮度で、素晴らしかった。この映画を制作するのにあたり、スピルバーグジョン・ファヴローにフォードの西部劇などを解説付きで観せまくったのだそうだ。かつてフォードからスピルバーグに伝えられたという映画監督の最初の決断「地平線をどこに引くか」の妙技を継承したという。「継承する相手ファヴローで大丈夫か?」と心配もありつつも、この映画でファヴローが引いた地平線は素晴らしい。ダニエル・クレイグが馬から宇宙船に飛び移るシークエンスは『駅馬車』だ。ハリソン・フォードがインディー・ジョーンズである事も(ラスト崩れる要塞から脱出するハリソン・フォード!)、ダニエル・クレイグジェームズ・ボンドである事もジョン・ファヴローしっかりと引き受けて映画を作っている感じがとてもいい。


脚本はちぐはぐだが、巧みにズラされている。そもそもダニエル・クレイグが記憶喪失になっていなくても物語は支障なく進行するのだけど、そうする事で映画が単なる復讐劇ではない何かに変容している。ハリソン・フォードの使用人が主人への愛情を告白するシークエンスでも、通訳を挟む事で気恥しさを回避し、純粋な感動を生んでいる。