スティーブン・アンダーソン『くまのプーさん』
ウォルト生誕110周年記念作品という事もあってか、往年のミッキーマウシングでもって音楽とアニメーションの融合がもたらす快楽性を今一度教えてくれる。言及されつくされているだろうが、ハチミツ禁断症状に陥ったプ―が陥るめくるめくサイケデリック多幸空間。あれぞ、アニメーションの真髄だ。ストーリーはおそらく意図的に破綻させてある。破綻と脱線がsillyな森の仲間たちのお間抜けっぷりによって増幅されていき、サイケデリックなアニメーション描写と相まって、脳内がトロトロに溶けていく。古き良きコントのような笑いの作り方も、絶妙な間とファニーさで見事に増幅されている。
今作のオープニングでは、CGで描かれたクリストファー・ロビンの部屋とそこに置かれたぬいぐるみの映像が流れる。更にエンドロールでは劇中のシーンがその部屋でぬいぐるみ達によって再現されている。つまり、『くまのプ―さん』という作品はクリストファー・ロビンの空想である、というメタ構造(正確に言えば、父であり原作者であるA・A・ミルンがクスリストファーに読み聞かせた物語)を強調している。原作では、小学生になったクリストファー・ロビンが空想する事をやめ、100エーカーの森と別れを告げるラストが待ち受けていた。しかし、この映画でのクリストファー・ロビンは今までより大人顔、しっかりと制服を着て、新学期を迎えたりしている。ディズニー版のロビンはまさに「すぐもどる」を実行したのだ。
空想する事をやめるな
これが愛すべきボンクラ、ジョン・ラセターが指揮するディズニーからのメッセージだ。素晴らしきウォルト生誕110周年にふさわしい傑作の誕生だ。