青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

マームとジプシー『あ、ストレンジャー』


演技の速度を変えたり、観客の視点をズラしたりして、何度も同一のシークエンスが繰り返される。主催の藤田貴大によれば、それは記憶であり、繰り返しのリフレインは感情の蘇生を表現しているのだそうだ。同一の体験だとしても、それを所有する人間が異なればその質感は変容する。また、同じ人間の持つ記憶だとしても、何かのきっかけでガラリと違った印象が立ち上がってくる。マームとジプシーは同一のシークエンスを多用し、多様な感情をグルーヴさせる。我々観客はそれを体感してしまう。


本作はカミュ『異邦人』をカラオケボックスで働く男女4人の物語として再構築したものだ。もちろんママンは死ぬし、海水浴にも行く。あくまで日常を描きつつも、片脚の鳩、オカマのおじさん、戦場カメラマンであるロバート・キャパの『ちょっとピンボケ』やRide『Nowhere』といった喪失感のあるモチーフを巧妙に配置することで、欠乏や不安定さを露呈させていく。主人公のむうちゃん(青柳いづみ)はムルソーよろしく、浮かび上がってきた不条理に5発の銃声を放つ。やはり僕らが生きる日常とは「平坦な戦場」なのだ。しかし、この舞台の何より感動的な所は、その戦場には常に、恋があり、音楽が鳴っている事だ。台詞回しそのものもまさに音楽である。藤田貴大という演出家、そして、青柳いづみという女優の才能に打ちのめされた。