青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

瀬田なつき『彼方からの手紙』


カゴに商品を入れる、尾行、自転車、歌、ステップなどなど、『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』を構成していたプロットが垣間見える。そして、数多の映画の記憶が浮かんでは消えていく。ヌーベルヴァーグ黒沢清ヴィム・ヴェンダースエドワード・ヤン・・・それらを軽やかに超えていくのが瀬田なつきなのだ。劇中においても、時間、場所、関係などあらゆるものを飛び超えていく。このジャンプ力はあまりに魅力的だ。


階段、観覧車、エレベーター、ベランダなどを巧みに写した縦、一級品のロードームービーとしても成立する横、が交差する見事な空間構造。その空間に、過去と未来の入れ子構造、更には「if」なども交わっていくのだから観ているほうは眩暈のする心地だ(もちろん恍惚と共に)。横の移動における、車内から都内〜横浜あたりの目に映るものを少女が呟いていく素晴らしいシークエンス。監督曰く

5年後見たら「古いな」と思えるものを撮っておきたかった

との事。現実を切り取り保存する、というこれまた映画的な行為である。首都高からビジネスビルの夜景を映すのは大胆にも『ヤンヤン夏の思い出』のオマージュか。また、東京タワー〜銀座ラインがやはり小沢健二を想わせる。監督は本当に小沢健二が好きなのだろう。そもそも「彼方からの手紙」というは「あぁあいつも来てればなぁって」でおなじみのオザケンの盟友スチャダラパーの名曲だ。


不在によって浮かびあがる存在。瀬田なつきは「彼方からの手紙」をこう書き替えた。

お元気ですか。
いかがお過ごしでしょうか。
こっちはあいかわらず、どうにもならんが、なんとかやっています。
この手紙を読むとき、君は、どんな顔をしているのだろう。
何百光年何億光年を旅しているような、
たまにそんな気持ちにもなります。
耳を澄ますと、色々な音が聞こえてきて、
そちらに音が聞こえればと思います。
太陽の昇る音、沈む音、月が満ちる音、
そんな音まで聞こえてくるんじゃないかと、ひとり耳を澄ますのです。
とても静かなのが、とてもうるさい。それは案外悪くないです。
寒い日の朝に、目を覚ますと、君たちがいたらなんて、
と、ちょっと思う。
恋しいなんて、ちょっと思う。
後悔したり、憤慨したり、にやにやしたり、
僕がいなくても何もかもがうまくいっているようだ。
たまには、僕がいたこと、僕がいないこと、
思い出してください。

ここでもやはり小沢健二が浮かびあがる。リズムも『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』の染谷のリーディングと同様。また、音楽を担当した木下美紗都も「彼方からの手紙」という曲を提供している。

僕はつくる 僕の未来 初めからダンスダンスダンス

この作品はとてつもないジャンプ力で、わたしたちを「ここではないどこか」に連れていってくれる。そこで僕らはダンスを踊るだろう。何度も見返したい傑作だ。