青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

フェルナンド・エインビッケ『ダック・シーズン』


フェイバリットに小津とジャームッシュを挙げ、モノクロで撮ってしまうスノッブさと、物語の細部にまで宿ったファニーさが見事に融和した堂々たるデビュー作。平面固定撮りを基調とし、更にモノクロであるにもかかわらず陰影と奥行きのあるショットのみずみずしさは天才のそれ。この作品は日本で公開、DVD化まで果たしたもののこの後の2作は未公開。海外では軒並み評価が高いようなのに。


傍から見れば大きくはないかもしれないが、当人たちにとっては決して小さくはない問題を抱えた「飛べない鳥」の4人が、ひょんな偶然から大型団地の1室に集まる。その1室は徐々にしがらみから超越した空間に変貌していくのだ。停電の昼の日曜日に!そこで彼らはお互いの悩みを笑う。とにかく笑う。ピザを食べたり、コーラを飲んだり、ゲームをしたり、ラリったり、ダンスをしたりする中で。そうすると、どうだろう、鳥は飛ぶのだ。


スピッツのこんな歌を想起する。

隠したナイフが似合わない僕を おどけた歌で慰めて

この曲のタイトルが「空も飛べるはず」というのはちょっと出来過ぎた話なのである。


まずもって母親が出かけた日曜日の留守番、友達2人で好き放題やろうぜ!というモチーフからして甘い記憶をくすぐられて、とてもよい。そして何より素晴らしいのが、この映画が1つのカットに人々が並列に撮られる多幸感に満ちている事だろう。

ダック・シーズン [DVD]

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