瀬田なつき『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』
フフフフフーン
という染谷将太の「ルージュの伝言」の鼻歌で幕を開ける。これは”書き換えることについての”映画だ。まず、ルージュの「伝言」を書き換える事でそれを宣言している。「ルージュの伝言」は10年前の誘拐事件に強く結びついた忌まわしいメロディ。それを染谷は鼻歌に書き換える。そして、繰り出される染谷の嘘、嘘。嘘つきみーくんの嘘。嘘つきの嘘。それは、「もしも〜だったら」という祈りを「本当のこと」に書き換える運動である。ラストその染谷の祈りが炸裂するあまりに感動的なリーディングは、誰が何と言おうと小沢健二のそれだ。独白のリズムもさることながら、繰り出される名詞と文体。「銀座」「プラダ」「東京タワー」「ワインを飲み過ぎて」「子供に甘い名前をつけたりして」「お腹がちょっと出てきて」「君の白髪を染めたりするなんて」などなど、小沢健二的なフレーズの乱れ撃ち。言葉が強い映画だ。「夏になったら2人で修学旅行に行こう」のシークエンスでの言葉の乱射も素晴らかった。
まぁ、そうこう言う前にこの映画は視覚的に実に豊かで素晴らしい。見所があり過ぎて困る。大政絢が物を大振りで投げる時に発される女子のパトスはしっかりと目に見えるようだ。彼女の靴下を脱ぐ所作や足を艶めかし撮っているのも最高。2人の同棲生活(一緒に『ガメラ 大怪獣空中決戦』を観る!)や監禁シーンでの鈴木卓爾(!!)の怪演。スーパーや自転車での横移動シーン。とにかく物や人の移動シークエンスが素晴らしいのだ。その移動の舞台となる街の立体空間としての収まり方。そして近未来感。どれをとっても不思議な質感に満ちている。それでいてどこまでもポップ。あー後10回は劇場で見たい。嘘だけど。