鈴木卓爾『にじ』
園子温と平野勝行に認められよう、というモチベーションで作ったという鈴木卓爾20歳の頃の自主8mm。ぴあフィルムフェスティバル(PFF)で審査員特別賞を受賞。「自分で自分を撮る。カメラを回し出したらフィルムが終わるまで撮り続ける。なるべく撮った順に繋げる」をルールとして課し、制作されている。何をやっているのかわからないし、映像の揺れや音の割れもひどくて見られたものじゃないのだが、何故だかめっぽうおもしろいのだ。すでにこの8mm作品で監督としての資質が見え隠れしている。例えば、日常を無理矢理フィクションに落とし込もうとする態度。祖父母を旅先で出会った"老夫婦"という役柄に勝手に設定して、一方的にコミュニケーションする。しかし、それに対する他者からのツッコミはない。フィクションへの否定が一切映ってない。この質感はまさしく『ゲゲゲの女房』だ。
画面に映る8mmフィルムは1本で3分間。今作が映し取っているのは、ウルトラマンが地上にいられるのは3分間、走る電車、夕方5時のチャイム、生える髭と髪、年老いた祖父母・・・この『虹』という作品は、目には見えない時の流れを何とか具現化しようとする試みだったんではないかと思う。時の流れに確かに存在する自分を、画面に刻みつけようとする若者。1番好きだったのは、祖父がベランダでバイオリンを弾く力強いシークエンス!