青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

井土紀州『泥の惑星』


渋谷ユーロスペースにて「映画一揆」ラストを飾る井土紀州『泥の惑星』を見てきた。井土監督がまさかの青春群像物。脚本は『13人の刺客』の天願大介。その天願氏が担任をつめる映画学校のクラスの卒業制作だという。

星座を破壊せよ。星と星の間に、新しい一本の線を引け

期待と恐怖が伴う「変っていくこと」に怯える若者(いや、若者に限らない)を優しく、激しく肯定する。言葉でなく映像で。脚本を人にまかせたことによって、井土監督が一歩ひいて撮っているのが功を奏している。若さから香りたつ、葛藤、性欲を表現したようなフリージャズが流れる中、永遠にすれ違いながら並行して生きていく人、人、人が映し出されていくラストは圧巻だ。

星を見上げる天体部の少女と、泥と向き合い地面を見下げる農業高校の少年が、ホールデンを名乗る少年の飛び降りにより、視線が合うというのもおもしろい。最近の井土監督の作品は視線を映像で魅せてくれる。少年の家は母子家庭で貧乏で妹は不登校で、少女には様々な葛藤があって、みたいのが想像できる展開だったのだけど、そこを掘り下げるのスパっとやめて、夜の屋上での待ち合わせや赤いカーディガンや放課後に鳴っている音楽や図書室や保健室、といった誰もが胸震えるディティール演出にしぼったのも正解。ドキドキした。そういう人物背景を詰めていかなくても物語って転がってくんだなぁ。何といっても赤いカーディガンの女の子の顔が素晴らしい。台詞回しはまぁ、ともかくとして顔の演技ができてればとりあえずはいいのです。ドキっする顔をする女優さんでした。