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大林宣彦『水の旅人 侍KIDS』

水の旅人-侍KIDS- [DVD]

水の旅人-侍KIDS- [DVD]

公開当時、子ども達の間では『水の旅人侍KIDS』派と『REX 恐竜物語』派に分かれ、熾烈な争いが繰り広げられていた。『REX 恐竜物語』の監督である角川春樹がコカインで逮捕され、上映中止が相次いだことで、『水の旅人侍KIDS』派は勝利の雄叫びを上げたのである。


異者との触れ合いにより成長する少年/少女という正統派のジュナイブル。しかし、大林宣彦であるからして、演出は奇妙奇天烈だ。画面の色調からして不安定、猛烈なスピードのカットチェンジは完全に神経症の域である。しかし、幼心には「変だ」なんて微塵も感じなかったわけで、あれが子どもにとっては当たり前の世界の認識なのかもしれない。


レコードの回転を利用してのトレーニング、光と埃の図書館、豊かな水に溢れた故郷、学校のキャンプ、カラスとの友情、チョコレートはクモの味・・・子ども心をくすぐるディティールの数々が素晴らしい。


そして、登場人物は誰もが、残酷に過ぎゆく時の流れに苦しんでいる。母(風吹ジュン)は老いて美貌が衰えていくこと、姉(伊藤歩)は子どもから女性へと変わりゆくこと、少年は侍との別れが訪れること、先生(原田知世)は子ども心をなくしてしまうこと。侍は海を目指す理由を「死に場所を見つけに行くためだ」と言う。そんなどこか重苦しいムードを

今のうちに大切な宝物をたくさん見つけて隠しておけ
そうすれば寂しくなくなるよ

という、時の流れに抗う術を語る父(岸部一徳)の台詞がほどいていく。岸部一徳が自らの生まれ故郷で、かつての宝物を息子に魅せる雨のシークエンスがこの映画の肝だ。