青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

『Nizi Project』の素晴らしさに寄せて

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まさに一世風靡という感じの『Nizi Project』の素晴らしさに遅ればせながら打ちひしがれている。もしあなたが(数日前のわたしのように)まだこの番組に触れていないというのであれば、YouTubeで公式にアップされている#1をクリックすることをオススメする。これは単なるアイドルオーディション番組の域を超えた力のあるコンテンツだ。もし、#1を観終えたのであれば、そこに少しだけ余計な解説を添えることをお許しいただきたい。


この番組の主役と言ってしまっていいJ.Y.Park(TWICEや2PMを手掛けるなど韓国を代表するプロデューサー)がオーディションのはじまりに、自らの芸術観を語り出す。

人の見えないところを見えるようにするのが芸術です

これはスイスの画家パウル・クレーの「芸術とは見えるものを再現するのではなく、見えないものを見えるようにするものである」からの引用であろうし、もっとわかりやすく噛み砕くのであれば、サン=テグジュペリ星の王子さま』における「いちばん大切なものは、目には見えない」というキツネの言葉に呼応している。このJ.Y.Parkの信念は番組全体に貫かれており、たとえば、典型的な元気なアイドル像を演じてパフォーマンスをした練習生をこんな風にして諭すのだ。

自分自身がしっかりと感じて表現しているように感じません
僕たちはみんな一人ひとりの顔が違うように、一人ひとりの心、精神も違います。
見えない精神、心を見えるようにすることが芸術です

J.Y.Parkは「人の見えるところではなく、見えないところがはるかに大事だ」と語る。自分はこのオーディションを通じて、その人の持つ想い、心、性格といったものを歌やダンスで表現できる人材を探しているのだ、と。そんな挿話の後、「トン トン トン」という扉を叩く3回のノックと共に、ヒルマン・ニナという天使性を湛えた日米ハーフの美しい少女が現れるシーンはあまりに感動的だ。「扉をノックして入ってきたのはあなたがはじめて」とJ.Y.Parkが少しの戸惑いと共に賛辞を贈った後、少女は圧倒的な歌唱を披露する。あぁ、この少女が物語の主人公なのだと誰もが即座に理解してしまうだろう。当然のように、J.Y.Parkは彼女のパフォーマンスを称賛する。

あなたは完全にスターだと思う
あなたは、自分に対しての表現がはっきりしていると思う
芸術は自分自身を表現することだけど
大体の参加者たちはオーディションを自分の実力に対する評価だと思っている
そうじゃない!そんなコンテストではない
僕はただ、あなた自身の表現力が見たい

ニナは自分自身の表現をすでに会得している。であるから、J.Y.Parkは彼女自身のキャラクターがそのままパフォーマンスに現れていることを褒め称えるのだ。「誰かの真似をせず、自分の声で、表情で歌うこと」というのもこのオーディションを通じて何度もJ.Y.Parkが練習生に伝えるアドバイスの一つ。そして、彼は「わたしたちは誰もが特別な存在なんだ」と訴え続ける。そして、このオーディションに落ちたからといって、その特別性は一切損なわれないと。


さらにJ.Y.Parkは、歌手・アイドルというのは、“世界に自らを真似させるような”存在であるが故に、「常に嘘がなく、誠実で、謙虚でありなさい」と未来ある少女たちに説いていく。その目には見えない美しい精神性がパフォーマンスとして現れ、世界中に伝染していくのだと。まさに!それこそがポップミュージックの力だ。オーディションを勝ち抜いて結成されたNiziUのデビュー曲「make you happy」を聞くたびにわたしは涙ぐんでしまう。

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Nothing ヒミツならNothing
Something 特別なモノあげるのに
どんなのがいい? 笑顔にしたいのに
That thing 探し出す キミのために

もう ねぇねぇ 何見て
何聴いて 幸せ?
話してみて すべてね

Ooh I just wanna make you happy
あ~もう! 笑ってほしい
忘れちゃった笑顔も 大丈夫 ちゃんと取り戻して
その笑顔見てるとき ほんと幸せ
What do you want?
What do you need?
Anything
Everything
You, Tell me

Gave me きれいな恋 Gave me
Held me 小さなこの手繋いで
大切よ ひとりきりにはさせないよ
Take me この私 全部あげたいの

バレバレのハート
私だけのカード
忘れずに そばに来て

Ooh I just wanna make you happy
あ~もう! 笑ってほしい
忘れちゃった笑顔も 大丈夫 ちゃんと取り戻して
その笑顔見てるとき ほんと幸せ
What do you want?
What do you need?
Anything
Everything
You, Tell me

Tell me Like OOH-AHH
FANCY me do not
be ICY I'm So Hot
no Good-bye Baby good-bye

Tell me Like OOH-AHH
FANCY me do not
be ICY I'm So Hot
no Good-bye Baby good-bye

キミがくれる安心
寄り添って 休めるための場所
光が満ちて Feel いつだって
夢見てるの一緒

完全Sweetなメロディー
本当に癒してくるセオリー
Put it on repeat 聴いて ずっと ずっと
You're my favorite song

Ooh I just wanna make you happy
あ~もう! 笑ってほしい
忘れちゃった笑顔も 大丈夫 ちゃんと取り戻して
その笑顔見てるとき ほんと幸せ
What do you want?
What do you need?
Anything
Everything
You, Tell me

拙いティーン・エイジャーの恋模様を隠蓑にしながら、ここで歌われているのは「ポップミュージックとわたしたち」の関係性そのものではにか。崇高な精神から放たれる音楽はいつだって、「ひとりきりにはさせないよ」と寄り添ってくれる。この行き先の見えない混沌とした2020年に、わたしたちの気持ちを軽やかかにリフトアップしてくれるヒットソングの誕生だ。*1



J.Y.Parkが共鳴するパウル・クレーが連作で描き続けてきた天使について。それは宗教性を帯びたものではなく、人間の“自己の変容”を表したものだと言われている。どこか未完成な様相のクレーの描く天使たちは、「より良い自分でありたい」というわたしたちの祈りのようだ。クレー自身もこんな言葉を残している。

私が表したいと思っている人間は、現にあるがままの姿では全然なくて、
“ありうるでもあろう”姿だけです

クレーの描く天使のイマージュ、それはまさにオーデイションを通じて絶え間ない努力で「もっといい自分へ」と成長を遂げていく彼女たちにピッタリとはてはまる。J.Y.Parkが「新人の瞳はこの世で最も美しいものの1つ」というように、より良くあろうする人間の懸命さは、なによりも観る者の胸を捉えるのだ。


最後に余談になるが、谷川俊太郎がクレーの描く天使たちに詩を添えた『クレーの天使』という本があるのだけども、クレーの描く天使の中で最も有名な「忘れっぽい天使」にはこんな詩が添えられている。

すぐそよかぜにまぎれてしまううたでなぐさめる

<余談>
『NIziProject』の細部の素晴らしさに言及できていないことに後悔がある。たとえば、オーディションにおけるベストパフォーマンスである若干15歳の天才ミイヒのWonder Girls「NOBODY」カバー。
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これはもうデビュー当時の宇多田ヒカルの表現力に匹敵するではないか。


そして、もうひとつ。J.Y.Parkが口だけではなく、優れたアーティストであることのなによりの証左。Twiceに提供した「Feel Special」のセルフカバーパフォーマンス。これぞ、Asian Soulだ。
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*1:今年度の新入社員と同行したときに車内で流れたこの曲に、「聞いていると元気になれますよね」と言った新入社員の衒いのない笑顔が忘れられない