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『千鳥のニッポンハッピーチャンネル』エピソード1〜3

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『千鳥のニッポンハッピーチャンネル』は千鳥・大悟が「日本にハッピーを届けたい!」というコンセプトのもとに様々なコンテンツを発信していくという形式のAmazon Prime Video配信による新番組である。その第一弾(エピソード1〜3)では、日本が元気だった頃を象徴するトレンディドラマを復活させる。これがもう抜群におもしろく*1、『いろはに千鳥』『相席食堂』『テレビ千鳥』に続く、この『千鳥のニッポンハッピーチャンネル』でもってして、2019年もやっぱり千鳥の年だった言い切ってしまいたい。


大悟が監督・脚本・主演を務めたドラマ『ロングロード』は、『東京ラブストーリー』(1991)を下敷きにしたトレンディドラマのオマージュ作品で、『お金がない!』(1994)をこよなく愛する大悟*2織田裕二の魂が息吹いている。第3回「疑惑の朝」での、流星(大悟)と南(足立梨花)の2人の距離が物理的に、心理的に近づいていくシーンを雨降る公園で表現する素晴らしさ。降りしきる雨と2人を隔てる距離が、自ずとエモーショナルな大声を召喚する。これぞトレンディだ!と快哉を叫ぶこと必至だ。オマージュ対象はトレンディドラマに留まらず、長渕剛主演の『ボディーガード』(1997)やインド映画など多岐に渡り、伏線を撒き散らしながら、回収されずにとっ散らかっていく。また単なる模倣には留まらず、主にダイアンの2人を担い手として、大悟の「誰が何と言おうと、これがおもしろい」というこだわりが随所に詰まっている。律儀に必ず流されるOP映像(傑作!!)、長引く台詞の応酬、スローモーションでのリフレイン、過多な回想シーン、流星の決め台詞として多用される「サゲポヨだぜ」「フレ!フレ!俺!」、執拗に繰り返される津田(津田)の「初日から遅刻ってすっげぇ度胸してるよな」・・・千鳥の漫才からもうかがえる大悟の偏執的なまでの”反復”へのこだわりは呪術のようにまとわりつき、「開いてる店は開いてるけど、閉まってる店は閉まってる」「好きな人には”好き”と叫ぶべき」というような真理に、ひたすらに遠回りして辿り着くようなおかしさと快感がある。
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ゲストのピース又吉北原里英とソファーでくつろぎながらドラマの感想を述べ合っていくという、『テラスハウス』スタイルで番組は進んでいく。昭和(トレンディドラマ)と現代(恋愛リアリティショー)の見事なハイブリッド。画面にツッコミ続けるノブの姿は現代のテレビ視聴者の楽しみ方そのもの。そして、ピース又吉の深い考察が、作者である大悟の想定を越えてドラマを豊かにしていく様は、批評と作品の幸福な関係性を体現している。ここに、テレビドラマを楽しむ我々の姿が丸っと映し出されているのだ。


最終話を巡る大悟と又吉の考察が実に機知に富んでいたので抜粋しておきたい。意味ありげに登場するも、物語に一切絡まない西岡徳間に疑問を呈するノブに対して大悟、

ドラマだから違和感があるけど
後ろにいた人が人生に関わってくるかというとそうではない
全部が全部絡むわけじゃない


突如として、これまでにない大きさに変容したマスターシゲさんに疑問を呈するノブに対して大悟、

絵面だけですべて物事を切り取るなよ
「あんぐらい大きく見えた」という表現
実際は大きくない


ラストのキスシーンが股間に白鳥によって為されることに疑問を呈するノブに対して又吉、

面白さと悲しさって表裏一体
どんなシリアスな物語も楽しく
自分がどう感じれるか

ここには本物の表現論がある。

*1:私は3回観ました

*2:大悟はドラマ『お金がない!』を7回観たらしい