青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

TBSラジオ『空気階段の踊り場』

f:id:hiko1985:20190920015516j:plain
この番組には強烈な人間賛歌が迸っている。路上のアウトサイダーにインタビューをするという番組の初期を支えた名物コーナー「サラリーマン“じゃない”人の声」*1に、 “歯のない人”が頻繁に登場する。まるで何かが欠けた人の象徴のように。童貞、借金、不倫、離婚、無職・・・といったようなワードが飛び交う少し“普通じゃない”人々の醜態を笑い飛ばすといった趣旨のコーナーなのだが、それが露悪的に映らないのは、空気階段の両名もまたあきらかにピースの欠けた人間だからだろう。ギャンブルや風俗でこしらえた600万円の借金を抱え、新婚で子持ちながら家族と別居生活を続ける鈴木もぐら、高学歴引きこもりという経歴を持ち、仕送り総額1200万のマザコンという水川かたまり。しかし、そんな二人の不毛な罵り合いがどうにも愛おしく響く。「人間は凸凹であるが故に愛おしく、深く結びつき合うのだ」というのを体現しているコンビが空気階段であり、ラジオ『空気階段の踊り場』なのだ。


どんなに歪でブサイクでも、彼らは懸命にダンスを続けている。TBSクラウドにて、初回から聞くことが推奨されるでしょう*2。ネタで勝ち取ったラジオ枠にて、ほぼ無名の状態から、劇場でのランク昇格や人気番組への出演などが逐一報告され、芸人として少しずつランクを上げていく様を追いかけることができる。だけでなく、初回放送では素人童貞であった男が、初の恋人を得てプロポーズ、そして父になる様までもが記録されているのだ。アウトサイダーたちが少しずつこの社会でサヴァイヴしていく様が生々しく刻まれた一級の青春ドキュメンタリーとして楽しむことができる。水川かたまりによる号泣プロポーズや鈴木もぐらと銀杏BOYZの関係を綴った「駆け抜けてもぐら~僕と銀杏の青春時代~」など伝説的な回も多いが、もぐらの家族を巡るエピソードの哀愁、頻繁に登場する岡野陽一とのクズ兄弟の競演、かたまりがもぐらの体臭を罵倒するだけの回、かたまりがもぐらの足を洗ってあげるだけの回など、聞き所は随所にちりばめられていますので、お聞き逃しなく。今後メディアで大きく活躍していくであろう空気階段の存在が、この不寛容な現代に一石を投じることになれば、と願います。

*1:同じTBSラジオ森本毅郎・スタンバイ!』内のコーナー「サラリーマンの声」のパロデイ

*2:かく言う私も其口です