青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

ミツメ『エスパー』

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なんでもわかりあえてしまう2人。そんな”誰か”と出会ってしまうこと、それは生きる喜びを見つけたに等しい。しかし、そんな関係を「エスパー」と名付けた瞬間に、世界はなにやら不穏な気配を帯び始める。『ストレンジャー・シングス』への明確なオマージュが捧げられたミュージックビデオに引っ張られ、そんなフィーリングを想い描いてしまう。暗く邪悪な世界は、平穏な日常を薄皮一枚隔てところに広がっている。それは荒唐無稽なSFのようでいて、あまりにも正しく世界への「居心地の悪さ」を体現している。

止まらない砂を かき集めるような
季節をいくつも 通り過ぎて

すべてのことが上手くはいかない。そんな時間を、我々は”青春”と呼ぶのだろうか。MVにおけるメンバーと少女のように、やっと見つけた”誰か”と互いに向き合いながらも、決して交わることはできない。*1「わかりあえた」と触れ合おうと思った瞬間に全てがわからなくなってしまう。そんな接続不能性。このミツメによる「エスパー」というシングルは、くるりによって「安心な僕らは旅に出ようぜ/思い切り泣いたり笑ったりしようぜ/僕らお互い弱虫すぎて/踏み込めないまま朝を迎える」と歌われた「ばらの花」以来のティーンエイジ・シンフォニーになりえるのではないだろうか。
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この「エスパー」は、Aメロ→Bメロ→サビというミツメらしからぬ普遍的なポップソングの構成を持ち、更にそのサビのメロディはバンド至上最もキャッチーな響きを持ち合わせている。松田聖子銀杏BOYZといったアーティストのトリビュートアルバムへの参加や座右の1枚に荒井由実『MISSLIM』をチョイスしていることも示唆的だが、川辺素のソングライティングの大きな資質の一つは、歌謡性に長けたメロデイセンスだ。その才能が1stアルバム『mitsume』以来に(と言っていいだろう)、大いに解放されている。しかし、歌詞カードを眺めながら空でメロディを口ずさんでみるとわかるのだが、その節回しと譜割りは想像以上にトリッキー。これをキャッチーに響かせてしまう川辺素のボーカリストとしての力を改めて思い知る。


メンバーはその類まれなるアレンジ力でもって、詩の紡ぐ世界観をサウンドとして構築していく。幾枚かのディスコグラフィで為してきたバンドのストレンジでスリリングな音楽的冒険が、キャリア屈指のメロディ・リリックと幸福に結実している。まさにバンドの集大成であり代表曲となりえるナンバーだろう。譜面を意図的に外したメロデイが、楽曲のフックとしてあまりにも堂々と点在しているのが、何よりも感動的だ。”正しさ”の価値観は崩れていく。そうすることで、世界への違和感、その歪さは”美しさ”へと転化していくのだ。

*1:故にMVのラストには救われてしまう