青春ゾンビ

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渡辺梨加1st写真集『饒舌な眼差し』

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器と魂の不一致。グループ屈指のパーフェクトビューティーなルックと、幼児のような魂。神様のうっかりミスとでも言うようなその”ズレ”が渡辺梨加欅坂46)というアイドルの最大の魅力ではないだろうか。物言わぬアイドルである彼女が、心の底で何を考えているのかを想像するのは楽しい。その心の中は、やはり小さな子どものように無邪気、と同時に残酷なのではないだろうか。ジャン・コクトーが『職業の秘密』という本の中で、人々の中の”天使性”と呼ぶべき印をこう定義している。

無私無欲、エゴイズム、やさしい憐憫、残酷、交際嫌い、放蕩のなかの純真、地上の快楽にたいする激しい好みと、それにたいする侮辱の混合、無邪気な背徳・・・

天使という形容は、純真無垢でただただかわいらしい対象に用いるのではなく、こういったあらゆる事象に引き裂かれ混乱した、それでいて若々しく美しい生き物のことを指すにふさわしいというわけだ。


一方で、渡辺梨加はあれほどの美貌というアドバンテージを持ちながら、短大卒業後の就職活動では40社以上を落ち続けたのだという。このエピソードを聞くたびに、胸がキューっとなってしまう。なんたる社会との不適合性。天使は現代を生きるには自由過ぎるのか。テレビ収録などで見かける渡辺梨加は、その魅力を持て余すかのように縮こまり、沈黙を貫いている(それが異様なまでの”儚さ”を体現していて、その人気に拍車をかけているようにも思う)。しかし、この1st写真集『饒舌な眼差し』における彼女はどうだろう。エーゲ海の眩いばかり太陽の光に晒され、その身体はくっきりとした実存性を刻み、そして雄弁に(饒舌な眼差し!)、多様で色鮮やかな生の瑞々しさを我々に訴えかける。


それまでウェーブがかかっていた前髪が、ストンと真っ直ぐ額に落とした彼女を捉えたいくつかのショットの連作がとりわけ素晴らしい。醸し出す空気の質感の差異にハッとさせられてしまう。歯ブラシを咥え、ベッドで飛び跳ね、地図を広げて行き先を決める。なるほど、ぼくらが旅に出る理由なんて、だいたい100個くらいあるのだ。

欅坂46 渡辺梨加 1st写真集 『饒舌な眼差し』

欅坂46 渡辺梨加 1st写真集 『饒舌な眼差し』