青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

大根仁『ハロー張りネズミ』1話

f:id:hiko1985:20170718165618j:plain

まあ、調査費用はふっかけられるかもしれませんが
何せドブネズミのような連中ですから

片桐(矢島健一)の“ドブネズミのような連中”という言葉に導かれて、スナックのカラオケでTHE BLUE HEARTSの「リンダリンダ」が流れる

ドブネズミみたいに美しくなりたい
写真には写らない 美しさがあるから

このシーンにおける五郎(瑛太)は、「身体性は甲本ヒロトを模しているにも関わらず、節回しは長渕剛」という非常に器用なモノマネを披露している。この理解できる人もそう多くないであろう空滑りしたギャグは、実のところ『ハロー張りネズミ』というドラマのフィーリングを象徴している。この”モノマネ”と甲本ヒロト長渕剛が混ざり合った”2人で1つ”という感覚は、1話そのものだ。川田(伊藤淳史)からの「”死んだ娘は生きている”という瀕死の妻についた嘘を本当にする為に、娘に似た少女を見つけてきて欲しい」という依頼を受け、五郎とグレ(森田剛)は紆余曲折の果てに、”遥”という孤児を見つけ出し、死んだ娘のモノマネをさせる。そのモノマネの果てに、疑似の親子関係が混濁していき、本物の家族に変容してしまう。ここでは、子役の三本采香が1人2役でもって、遥と死んだ娘を演じ分けている。そして、この”2人で1つ”という感覚は、五郎とグレという2人の探偵バディものである『ハロー張りネズミ』の開始宣言にもなっていると言えよう。


疑似親子から本物への変容を支えるのは、焼酎をベースとしていないチューハイを例に出した

でもいいんじゃん、代わりだって
酔えるし、おいしいもん

という所長(山口智子)の台詞だ。同じくTBSの『逃げるは恥だが役に立つ』や『カルテット』などが打ち出した現代的テーマへの目配せとも言えなくはないが、「代わりでもいい、偽物でもいい」という感覚が、見事にドラマに落とし込められている。瑛太が吸う煙草が”電子タバコ”であるのも見逃せないだろう。


山手線に乗って、池袋で東武東上線の各駅停車に乗り換えてください
8つ目の「下赤塚」という駅を降りると
23区内とは思えない古くさい商店街があります
その外れにある探偵事務所ならば、
あなたの依頼を受けてくれるかもしれませんよ

本作の舞台は、”23区内とは思えない古くさい商店街”と評される板橋区下赤塚の商店街。つまり『ハロー張りネズミ』が描くのは、時代から忘れ去られようとしているものなのだろう。THE BLUE HEATS、長渕剛、『あぶない刑事』だの『ねるとん紅鯨団』だのを無邪気に引用してみせながら、昭和の探偵ドラマのフィーリングを蘇らせようとしている。それは「リンダリンダ」が言うところの”ドブネズミのような写真には写らない美しさ”であって、劇中の五郎の言葉を借りるのであれば、”人情とお節介”というやつなのだろう。これまで大根仁テレビ東京の深夜枠で手掛けてきた『まほろ駅前番外地』(2013)にしろ、『リバースエッジ 大川端探偵社』(2014)にしろ、同様の気概を感じたし、監督した劇場公開作『SCOOP!』(2016)も原田眞人『盗写 1/250秒』(1985)のリメイク。昭和のエンターテインメントのエネルギーを現代に召喚してみせるといういうのが、大根仁のライフワークなのだろうか。そういう意味では山口智子のトレンディな演技もハマっているし、どう考えても演技レベルが大根作品の求めるそれに達していないように感じる伊藤淳史のキャスティングも『とんねるずのみなさんのおかげです』のチビノリダーの記憶を求めてか。ちなみに、1991年に公開された映画版『ハロー張りネズミ』は未見なのだけど、五郎役は山口智子の夫である唐沢寿明が演じていたらしい。



まほろ駅前番外地』での瑛太/松田龍平の長身コンビが素晴らしかったのは言わずもがなだが、瑛太/森田剛の凸凹感もルックとして面白い。しかし、瑛太森田剛で探偵バディモノを大根仁が撮る、ということで今期最も期待している連続テレビドラマだったのだが、この1話の段階では、まだ面白味を掴み切れていないでいる。キャラクターが生きている感じがしないし、1話完結でやるには題材がエモーショナル過ぎて、尺の関係で内容がややペラペラに感じてしまった。マドンナ役の深田恭子登場で2話以降がどう変わっていくかに期待です。ところで、依頼が入ると、所長が床を3回ドンドンドンと叩き、階下のスナックにいる五郎とグレが登ってくるという設定、おもしろいのだけども、”ネズミ”というモチーフを考えたら、スナックが事務所の上にあったほうがハマったような。



関連エントリー
hiko1985.hatenablog.com
hiko1985.hatenablog.com
hiko1985.hatenablog.com