青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

落日飛車(Sunset Rollercoaster)『JINJI KIKKO』

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まさかのAORリバイバルである。昨年、サニーデイ・サービスが傑作アルバム『Dance To You』にてネッド・ドヒニーボズ・スキャッグスを、ceroが全国ツアー『MODERN STEPS TOUR』のグッズデザインにスティーリー・ダンを、それぞれ引用してみせたのが印象的だった。AORなんて和製英語だろうと思いつつも、それは世界同時多発的なムードのようで、Thundercatがリード楽曲にマイケル・マクドナルドケニー・ロギンスを召喚、更には台湾のインディーシーンにおいても、AORを完全に血肉化したバンドが登場していた。このエントリーの主役、落日飛車(Sunset Rollercoaster)が昨年リリースしたEP『JINJI KIKKO』である。既にCDのみならずアナログ盤も日本でリリースされており、来日公演ではOGRE YOU ASSHOLEシャムキャッツ、ザ・なつやすみバンドらと共演を果たしているそうで、知るのが遅すぎました。


私はご多分に漏れず、先日のLampの染谷太陽のツイートに喚起され、慌てて音源をチェックしたのだけども、その素晴らしさにすっかりメロメロ。目下、エンドレスリピート中なのです。


何の衒いもなくAORを志向している。東京インディーシーンでは”シティポップ”と評されると嫌な顔をするバンドが多いのと対照的。しかも、インディーシーンにおいて広義の意味で使われる”シティポップ”ではなく、7~80年代に流行した本物のシティポップサウンドを再現しようとしているのだから痛快だ。日本の音楽のフェイバリットに角松敏生を挙げるセンスがいい。”山下達郎”ではなく角松敏生というのが本格派ではないか。確かに、落日飛車の兄弟を日本で探すのであれば、角松敏生であり、寺尾聡であり、来生たかおであり、はたまた浜田省吾かもしれない。ときに聞かせるフュージョンのような響きはカシオペアを想起する。野暮ったいそのメロウネスは、実に台北的と言える。あの街は、都会でありながらもどこか”懐かしさ”を湛えている。そんなタイムレスな質感を伴なった都市の音楽として落日飛車が機能しているであろうことは想像に難くなく、つまり彼らは広義の意味においてもシティポップなのだ。楽器の響きも忠実に70年代の録音を再現している(ayU tokiO来生たかおをボーカルやドラムの鳴りまでを完璧にこだわり抜きカバーしたのを想起してしまう)。それでいて、サイケデリックかつプログレッシブに拡張されていくインストパート挿入のセンスは非常に現代的であるし、それを実現させる優れたプレイアビリティがこのバンドにはある。そして、何といってもとびきりのメロディを書くソングライティングセンスがあって、そのロマンティックな響きは、ただそれだけでも特別な存在と言える。


過去のアーカイブスを参照することに何の衒いもない。いや、それどころか落日飛車というバンドの時間認識においては、過去も未来も現在もまるで同一の座標軸にあるかのように、緩やかに円環している(『あなたの人生の物語』もしくは『メッセージ』だ!!)。そのSF的思考はリリックにおいて存分に展開されており、この『JINJI KIKKO』という3曲入りのEPは、あらゆる時間軸に存在する”JINJI KIKKO”という 1人の女性をモチーフにして、時空を超えた愛の物語に仕立てあげられている。”JINJI KIKKO”は当然、”音楽”の暗喩であって、その壮大な物語には、バンドの音楽制作における態度のようなものが刻印されているようだ。