青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

草加健康センターという名の楽園

f:id:hiko1985:20170506153232j:plain
東武伊勢崎線草加駅から送迎バスで約5分。埼玉県の草加市、決してハイカラな土地ではないが、駅周辺には心地良い素朴さのようなものがあるし、ちょっとしたアクセスの困難さも旅情に華を添える。肝心の施設もまた、宴会騒ぎの大広間にゲームコーナー、カラオケホール、麻雀室・・・”健康センター”という名称にふさわしい野暮ったさ、よく言えば昭和レトロな趣を携えていて、「遠いところにきたぞ」という感覚を刺激してくれる。まずもって外観からして素晴らしい。どこか静岡の「サウナしきじ」を彷彿とさせ、これは良いサウナがあるに違いないという確信を抱かせてくれる。実際のところ、こちらのサウナは強烈。広く設計されたサウナは、ストーブと自動ロウリュウシステムが採用されたサウナストーンの2基使いで暖められている。温度計は90℃を示しているが、体感としては優に100℃を超えているように思う。すぐさま汗が気持ちよく噴き出すセッティングなのです。通常のサウナであれば1番人気である最上段に座る人は少なく、みな一様に下段か中段に陣取っている。それくらい熱い(サウナ初心者は足裏が焼けるような気分を覚えるかもしれない)。しかし、自動ロウリュウのおかげで湿度も高く保たれていて、汗が気持ちよく噴き出すナイスなセッティングであるから、どこまでも気持ちがいい。尻に敷く用のマットの使い放題がありがたいし、室内のマットも従業員によって細目に交換されていて衛生面も◎。更に入口には、口に含み冷をとる為の氷がクーラーボックスいっぱいに詰められている。さまに至れり尽くせりなのである。


水風呂は露天で(外気浴スペースも充分に保たれている)、15.5℃という実に思い切りのいい冷え具合。更にバイプラでもって凄まじく攪拌しており、サウナで編み上げた熱の衣を纏わせてはくれないので、そうそう長くは浸かっていられない。熱々だった身体がすぐさまキーンと冷える。100→15の急激な熱の下がり方であるから、毛細血管が伸縮し、血液が全身にいきわたり、脳内が不思議な幸福感に包まれてしまう。この恍惚と全身の痺れるようなディープリラックスをして、サウナ界では”ととのった“と表現する。余談になるのだが、ジャズミュージシャンにして文筆家の菊地成孔が仁節発のタトゥー彫りについて語ったインタビューの中で、氏がサウナ愛好家であることを公言していた。そこで思い出されたのが、2005年に菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール名義でリリースした『野生の思考』というアルバムのライナーノーツ。探してみたければど、アルバムは紛失していたので、公式サイトに記載されていたそのライナーの要約を引用したい。

1998年の夏に39度を超える高熱が頻発するようになり、10日以上連続したため入院する。夏バテの一種だと軽い気持ちでの検査入院だったが、解熱剤を投与しても、熱は一向に下がらず、ついに41.5度に達し全身のリンパ腺に結節が出来、膨れ上がった。病名は不明のままで、水と点滴と解熱剤で1ヶ月を過ごすと体重は60キロから34キロに。菊池は解熱剤を投与されたあと熱が急激に下がることを宗教的な昇天をイメージさせるほどの上昇感、もしくは法悦感と例え、しばらくして再び熱が上がっていく地獄のような悪寒と痙攣を舞踏病と例えている。この麻薬的な時間の中でハープとフルートの音色がずっと聴こえていたそうだ。

この文章はサウナで得られる快楽性の一端を捉えてしまっていやしないか。サウナ→水風呂という流れは、上がった熱を下げる為にあり、そこに伴う”ととのう”という感覚は大袈裟に表現するならば、“宗教的な昇天をイメージさせるほどの上昇感、もしくは法悦感”と言っていい。水風呂で冷えた身体を再びサウナで温める、下がった熱が上昇していく際に得られるのは、まさに舞踏病のような悪寒と痙攣と言っていいもちろん、サウナのそれは地獄のようではなく、そこにさえも快感が伴う。


話が逸れてしまった。とにかく、「草加健康センター」のサウナと水風呂は素晴らしい。こちらは中村獅童のベストサウナであるらしい。中村獅童に思い入れはないが、イメージとしては遊び人、快楽の限りを尽くした男という感じであるので、そんな彼がベストと公言するだから、その”気持ちよさ”には大きな箔がついたというものである。更にこの施設には、漢方剤仙薬草湯と露天草津温泉湯という2つの目玉が用意されている。漢方剤仙薬草湯は8種類の漢方生薬を混入しているそうで、薬効なのか何なのか、身体がピリピリするほどに温まる。草津温泉から源泉有効成分を濃厚にした液状の浴剤を直送しているという露天温泉は、強烈な硫黄臭の本格派。染み付いた匂いは家まで楽しめる。どちらも「草加健康センター」に訪れたらならば二度、三度は浸かりたい代物だ。
f:id:hiko1985:20170506181348j:plain
食堂兼宴会場である大広間ではカラオケ大会が開催されて、浴衣やら館内着を着たユルユルなお客さん達が次々にステージに上がっていく。ラーメンなどを啜りながら聞く素人の歌声はどういうわけか染みる。大勢の観客の前で歌うからにはみな腕自慢であって、それなりに上手なのだけども、とりわけ見ず知らずのおっさんの歌う玉置浩二「メロディー」などには思わず泣かされてしまった。

あんなにも 好きだった きみがいた この町に
いまもまだ 大好きな あの歌は 聞こえてるよ
いつも やさしくて 少し さみしくて
あの頃は なにもなくて
それだって 楽しくやったよ
メロディー 泣きながら
ぼくたちは 幸せを 見つめてたよ

おっさんの歌声には彼の人生の断片が積もっていた。NHKの『ドキュメント72時間』は健康センターの宴会場にカメラを置いてみるべきだろう。大抵は大きな拍手で賞賛されるわけだけども、決して悪い歌ではないのに、何故かあまり拍手をもらえない人もいて、そういう光景を見ると、どうにもいたたまれない気持ちになってしまうので、ここぞとばかりに大きな拍手をしてしまう自分がいる。人がいいというのではなく、気が小さいのだろう。更にこの日はGWスペシャルということで、大広間にて辺見マリの歌謡ショーが無料で開催された。最近では”しくじり先生”としても話題の辺見マリであるが、1曲も持ち歌は知らない。しかし、辺見えみり顔ファンである私としてはなんだかすっかりうれしくなってしまったのでした。