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青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

モリナガ・ヨウ『築地市場 絵でみる魚市場の一日』

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イラストルポというのが好きだ。圧倒的な密度の情報を記憶し、記録し、分類し、イラストという形で再構築する。それは何かがそこに確かに”在った”という事実に、ペンでもって挑むことだ。あぁ、かっこいい。憧れる。中でも1番のお気に入りはモリナガ・ヨウである。その柔かくも緻密なタッチを眺めるのは、宮崎駿近藤喜文の絵に触れる時の喜びに近い。所作、仕草、空間の見事な切り取り、それらは根気と鋭さを併せ持った観察眼と対象への愛によって達成されている。モリナガ・ヨウの絵には、まさに”写真には写らない美しさ”があるのだ。数多くの著作の中でも、90年代の変わりゆく東京の街のをひたすら歩いてスケッチすることで保存した『東京右往左往』はオススメのアイテム。

東京右往左往―TOKYO GOING THIS WAY AND THAT

東京右往左往―TOKYO GOING THIS WAY AND THAT

そして、昨年刊行された、第63回産経児童出版文化賞も受賞した『築地市場 絵でみる魚市場の一日』もまたオススメの1冊なのであります。「食卓に並ぶお魚はどこからやってくる?」というのを築地市場をベースにして、子ども向けに解説する絵本。築地市場の有様を克明に記録した本書は、移転問題によってその存在が揺らいでいる現在において、とりわけ重要な価値を備えてしまったように思う。


すべてのことは真夜中に起こる。密やかな夜の築地(せり場には観光客は入ることができない)の熱狂が閉じ込められたイラストの数々を眺めていると、思わず胸が躍り出してしまう。ここには確かな”熱”が記録されている。そして、それらは朝に向かうにつれ、何事もなかったように散っていってしまう。せり場のピークタイムを経て朝方の水色のアンビエンスまでをイラストに収めて終える本書の構成はクラブミュージックのようでもある(こじつけ)。


数多のトラックが築地市場に集まる様子(ひと晩に8000台!!)、せり場からマグロを乗せたターレ(電気で走る構内運搬車)や小車が飛び出してくる様子etc・・・そんな地味そうなモチーフも、モリナガ・ヨウの手にかかれば、とてつもなく、かっこいいのです。濡れた地面にはライトの灯りが反射し、夜の詩情を演出している。数々のメカニックの精緻な描き込みと大胆な構図には、思わずSF的想像力さえ刺激する事だろう。市場の建物が緩やかなカーブをえがいているのは、かつて魚を運ぶための鉄道がひかれていた名残・・・なんて記述には思わず「おぉっ」と声が漏れてしまった。積み重なる土地の記憶。そして、図鑑的側面を満たす、水槽、マグロを切り分ける包丁、のこぎり、まな板、デジタルの計り、注文のメモ、運搬車、砕氷機、深夜営業の売店、発砲スチロールの残骸、清掃の散水車といったマニアックな視点で描き込まれる細部の充実は興奮必至。お子様の食育教育にもバッチリですが、散りゆく築地市場の熱を目撃したい方、もしくはメカオタクからマグロオタクまであらゆる人々が楽しめる1冊に仕上がっております。オススメ。