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野木亜紀子『逃げるは恥だが役に立つ』10話

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いやはや、10話も面白かったですね。輪ゴムからコンドームを連想するガッキ―なんて!セクシー禁止女優の新垣結衣を逆手にとった演出の数々は逆にエッチで大変けしからん。頑なに眼鏡を外さない平匡(星野源)と、おそらくお気に入りであろう白い洋服を着てナポリンタンを作るみくり(新垣結衣)には狂気を感じました。


さて、たった1回セックスするやいなや、みくりに対して所有欲が湧いてしまう平匡。リストラ勧告により、自身の安定した収入が危ぶまれるやいないや、家事代行の賃金を払うよりも貯蓄に回したほうが合理的だ、と入籍(結婚)を提案。挙句には料理の感想すら言わなくなってしまう。いや、ひどい。たしかにひどい。あんなにラブラブだったみくりにまで

それは好きの搾取です

と言われてしまう始末だ。でも、違うでしょう。そう見えてしまうだけなのだ。重要なのは、沼田(古田新太)からリストラを勧告された時に発した平匡の台詞。

籍を入れていないってことは
責任を負っていないということになりますね

そうなのです。平匡は、これほどにも自分の人生を新しく、美しいものに変えてくれたみくりに対して、きちんと責任を負いたかったのだ。これは雇用主としてではなく、愛する人へ向ける想い。だからこそ、最高のプロポーズを決めようと、(日常会話を忘れるほどに)懸命にお店を探し、ワインの知識を詰め込み、王子の微笑みを纏った。しかし、平匡自身が「みくりに対して責任を負いたいのだ」という感情に無自覚であるから、”合理性”や”有意義”といったペラついた言葉のデータ化に躍起になってしまう。感情を上手く言葉にできないので、見積書で愛を表現してしまう男。それが平匡なのです。


対するみくりも面倒くさい女でして、散々「愛されたい」「好きって言って欲しい」とかモゴモゴ言うわりに、雇用>愛情という所がどこかにある。であるから、現在の「雇用+愛情」から雇用の要素がなくなってしまうのは受入れがたいのですね。高級レストランに行くのに事前に伝えてくれない女心のわからない平匡は許せても、これはダメ。

愛情の搾取に断固として反対します

というパンチラインまで放ってしまう。あぁ、これはまずい。修復可能なのか。深み読みすると、本心が伝わっていかない2人の暗喩としての餃子なのか。餃子ってのは餡(本心)が皮に包まれていきますから。ちなみに、「平匡さんはあの時、どう想ったのだろう」「みくりさんはあの時、どんな想いで」という想像力の処理はさすがに乱発しすぎなので、次は違う技を見せて欲しい所ですね。



百合ちゃん(石田ゆり子)と風見(大谷亮平)の恋も同じくらいに見逃せない。「世界遺産 ラスコー展」での偶然のダブルデートシーンが素晴らしい。「この壁画どうやってもってきたんだろう?」と杏奈(内田理央)の問いに、あれはレプリカだよ、と諭す風見。しかし、百合ちゃんは同じものを見て、

素敵ね
二万年も昔にこの画を書いた人の想いが 
今 ここにあるなんて

と呟く。それを聞いて、風見は自身の百合ちゃんへの想いがレプリカ(偽物)ではない、本当の感情であると気付く。巧みな脚本と演出である。


信じられるなら それで一緒にいられるなら
どんな形でもいいですよね
関係はそれぞれなんだし


どんなに奇妙も関係でも
意志があれば続いていく
どちらかが変えたいと願わないかぎり
バランスを崩さないかぎり
いつまでもこのまま続けていける

このみくりのナレーションに託される今作全体を貫く祈りのようなトーンが、どんな結末を迎えるのか。まったく読めませんが、どうかここまで付き合ってきた我々(視聴者)に新しい愛の形を提示しておくれ!と願わんばかりです。



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