青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

鳥山明『COWA!』

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「お~怖っ」(Ⓒガリガリガリクソン)って誰かが言ったら、「誰が”鳥山明先生の次回作にご期待下さい“じゃい」と返さなければいけない、という謎のルールが親しい友人との間にあって、これは勿論、鳥山明の『COWA!』という短編作品に起因しているわけなのですが、ずっと言い続けている内に、「もしかして鳥山明先生の最高傑作って『COWA!』なのでは」という想いに駆られてしまった。居ても立っていられなくなったのだけど、実家に取りに戻るのも面倒だったので、「えーいっ」と本屋に駆け込み、新刊で買い直すことに。何年か前に重版された時についた帯に

すべての作品の中でいちばん大スキなマンガであります

鳥山明本人が記していて、読む前にもう答えは出ていたわけですが、間違いない、これが鳥山明の最高傑作だ!

COWA! (ジャンプ・コミックス)

COWA! (ジャンプ・コミックス)

さてさて、『COWA!』の連載が始まったのは忘れもしない、1997年で、『ドラゴンボール』の連載終了から約2年。当時、小学6年生だった私は、超がつくほどの鳥山明フリークで、ランドセルには教科書の代わりに『ドラゴンボール大全集』
DRAGON BALL大全集―鳥山明ワールド (1)

DRAGON BALL大全集―鳥山明ワールド (1)

を入れて登校する、ってのをギャグではなく真剣にやり続けるような少年だった。授業そっちのけで、ナメック語の解読にいそしんだり(神龍を呼び出す時の呪文”タッカラプトポッポルンガプピリットパロ”は今でも諳んじられる)、ドラゴンボールカルトクイズを作成したり、と忙しい日々を送っていました。ちなみに、お気に入りの問題は「悟空が赤ん坊の時の戦闘力は2で、父親のバ―タックに「ちっ、戦闘力たったの2か…クズが」とか言われてたんだけど、その時、同じく赤ん坊だったブロリーの戦闘力はどれくらいだったと思う?」ってやつなんですけども、ちなみに答えは1万です。まぁ、それくらい熱狂していたので、1997年なんてのは「あー、世の中に鳥山明が足りねーわ」ってな感じだったわけです。そこに来ての鳥山明新連載の報。リアルタイムで鳥山明の新連載開始に立ち会えるというのは(短い人生ながら)初めての事だったので、これはもうおおいに盛り上がった。その新連載が『COWA!』です。当然のように夢中になったんですけど、やっぱり戦闘力もエネルギー波も修行もない本作には、小学生心にはどこか物足りなさも感じてしまっていた。「おでが読みたいのはこういうんじゃねぇんだよ、鳥山」と。


しかし、20年の時を経て読んでみると、どうでしょう。抜群に面白いではありませんか。絵本風のタッチに挑戦したという事で有名な今作ですが、絵本と言うよりも、どことなくアメリカンポップカルチャーの香りがするのが最高。抜群にキュートなタッチと類まれなるキャラクター&エピソードメイクで、物語の輪郭を積み重ね、最終的には横移動のロードムービーへ。そして、上昇と下降の”縦”の構図でクライマック、という完全無欠の短編に仕上がっております。鳥山明がずーっと描き続けている”異種間の交流”が、誰もが誰しも差別せず、阻害されない世界”ユートピア”として帰結するラストには思わずホロリ。無愛想でふとっちょ(元・最強力士)のマコリン、大好きだ。もうほんと全ページ、全コマが愛おしい。まさに今読み直してジャスト!な傑作であります。オススメ。


当時『COWA!』の連載開始を祝って、本屋さんのカウンターでイラストカードが無料で配られていて、クラスメイトの好きだった女の子が「これ、あんたの好きな漫画のやつでしょ?あげる」って言ってくれたんですよ。いや、当然持ってたんだけども、なんだか本当にうれしくて、中学入っても財布に入れていました、という余談が、本当は1番書きたかったことです。みっちゃん、元気かなー。